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ウマの健脚は、病み上がりの者を抱えているとは思えぬほどに、順調に旅路を進めていった。それでも進行速度を落としている隊商に、学士は息を切らせながらついていく。
太陽の南中からそれほど時もたたぬ頃、下見のために先を行っていた見習い衆の一人が、戻って来た。
「少し先に水場があったよ。水場に近すぎると地面の具合が悪いから、天幕を張るならこの辺じゃないかな」
その報告に、ベテランたちが寄り集まり、互いを伺う。
「どうするよ、日が落ちるまで、まだまだ時間があるぞ」
「いい土地じゃないか。病み上がりがいるんだから、とっとと休もう」
「ああ、そうだな」
ここで立ち止まる理由にされた隊長は非常に不満そうな顔を見せたが、反対しない。
「ここで休むよ。天幕準備!」
見習い衆を中心に、「おう」という力強い声が返る。
それを聞いたこどもたちが目を輝かせた。
「よっしゃーっ!あの岩まで競争っ!」
「おーっ!」
それをたしなめるのは母親たちだ。
「こらばかども!手伝いな!」
「じゃあ水汲んでくるーっ」
「待てこら!・・・っ、ああ、もうっ。すぐ戻って来いよ!」
「はーいっ」
こどもたちが桶を持ってかけていく。遅れてトリの少女も頼りない足取りで続く。
残った大人のウマたちは疲れた素振りなどかけらも見せず、てきぱきと野営の準備を始めた。
学士は、荷車の陰で大きく息をついた。ちょうど近づいてきた隊長の妻が、それを見て笑った。
「お疲れのようだね、先生。こどもたちだってあの通りだよ?」
「さすがに、少しばかり・・・・・・、やはり純血のウマには敵いませんね」
そう言うが、まだ余裕がある。
「まあ、うちらはそういう生き物だ。あんたは五体満足で生まれたことに感謝しときな」
「そうします」
「休んどきなよ。見てのとおり、体力が有り余ってるやつらばっかりだ」
「いえ、少しくらいは手伝いますよ。薬代だけでは、過分な待遇ですから」
学士は野営に必要な荷下ろしを手伝おうと、その一つに手をかけた。しかし女が、それを遮った。
「なあ先生」
「はい?」
「――あの話、考えてくれたかい?」
学士は荷物から手を離した。女を見返し、躊躇いがちに答える。
「・・・・・・ええ、しかし、もう少し時間をいただきたい」
「悪い話じゃないと思うんだけどね。待遇になにか条件があるというなら聞くよ?」
「いえ、お話が不満と言うわけじゃないんです。ですが、・・・」
「卒業課題ってやつが心残り?――正直あたしには価値がわからん課題だよ。あんたそれを、何年探してるんだい?」
「・・・・・・さあ?」
学士は淡く微笑んで首を傾げた。
「なあ、先生。ご存知だろうけども、商業連合はみんな新しい国だ。西国にとってのパゴダのような学問所がない。書物がない、知識がない。それらを得ようにも、パゴダはこっちとの交流を徹底的に拒む」
「申し訳ない、西国は・・・」
「知ってるよ、楽園回帰主義のやつらは厄介だ。イグナシオでも手を焼いてる。入ってきてほしくないって気持ちはわかるさ。ましてや、パゴダにとっちゃトラウマだろう」
「ええ・・・・・・」
「あたしは、西国に商売に行ったことがあると言っただろう。あのときの目的は商品じゃなく、技術者や学者を招くことだった。門前払いだったけどね」
学士は何か言おうとしたが、言葉を見つけられなかった。
その様子に、女は苦笑する。
「気にしなくていい、ただの愚痴だ。――でも、ほんの少しでも気になると言うならば、来てほしい。来てみて、気に入らなければまた旅を続けたっていいじゃないか」
「・・・・・・」
「いい返事を、期待してる」