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赤茶けた岩がごろごろと転がる、岩石砂漠だった。
そんな無機質な世界に、異質な天幕の群れがある。――遠方へと旅する隊商である。天幕群の中央で、商業連合の標章であるの馬蹄をあしらった旗が、風にはためいていた。
天幕の周囲で、〈ウマ〉のこどもたちが遊んでいた。これといったルールもない、ただ足の速さを競ったり、相手を追いかけたり逃げたりといった戯れである。
そんなこどもの一人を、天幕から出てきたばかりの女が呼び止めた。
「アナ、ちょっと」
「はーい、なーにー」
「頼みたいことがあるんだが・・・」
アナと呼ばれたこどもは行き過ぎて、振り返る。遅れて、前を行っていたこどもたちも立ち止まり、振り返った。
女は用事を言いつけるより先に、「おや?」と首をかしげた。
「ニキはどうした」
「あっちの岩の上。まぁたやってるよ。何もおもしろいもんなんてないのにさ」
「まあ、仕方ない。あの子は〈トリ〉だからね」
「馬鹿だから、の間違いじゃない?捕まえてこようか?」
「いい、あいつはほっときな。それより水を汲んできてくれ。隊長の熱がまた上がってきたんだ」
「ニキに言えばいいじゃん、どうせ何にもしてないんだからさ」
「あの子が運んだら、桶に水が残ってないよ。さっさと行っておいで」
こどもは不満げに息を吐き、承諾した。
「はーい」
手渡された桶を持って、他のこどもたちとともに水場へと走っていく。
大地を突き破るかのようにせり出した巨岩の上で、そのトリは〈風読み〉をしていた。
奇形の両翼で風を受け、目と耳が届く範囲よりも遥か遠方を見渡すのだ。
「・・・来る。来るよ。誰?トリじゃない、ウマじゃない。ムシケラでもキバでもない。誰?」
問いかける。
風は必ずしも明確な答えをもたらすわけではない。
「――!」
――見つけた。
「来たー!来たよー!」
岩を降りて走り出す。周囲にいる隊商の面々が何事かと驚いている中を駆け回る。
「来たよー!来たー!来たー!」
彼らは何事かと顔を上げ、少女の姿を認めると呆れ顔になった。
「なんだ?」
「またニキの馬鹿が・・・」
駆け回るトリの少女を、女が捕まえた。
「こぉら!天幕の近くで走ると危ない!病人も居るんだから静かにする!」
「でも、来たのよ!」
「何が」
「何かが来るの」
「はあ・・・?」
女は早々に少女との問答をあきらめた。
「――おい、見張り・・・・・・立ってねぇじゃねーか!ニキなんぞに任せんな!ちょっとあんた、見て来い!」
若いウマの青年が、それに応えた。
「はいはい!――・・・と」
ウマの健脚は、あっというまに高台を登った。
「なんか見えたか?」
「あー・・・・・・あ、ほんと、誰かいる!一人っぽい!歩いてる!」
ざわり、と天幕の周囲の空気が変化した。
「一人ぃ?」
その空気の色は、不安や疑心だ。
人々は、その心に湧いた灰色をささやきあう。
そのうちの一つが、誰の耳にも響いた。
「・・・まさか、旅人だとでも・・・?」