No.002_45
アキハル、リッセ、クオンの三人と連れ立って運送屋の事務所を後にした。
「マナ、聞いていいかしら」
リッセがにこりと笑い、問いかけてきた。
「なに?」
「あなたは、〈根切り虫〉について追っているの?それで、白都を・・・」
「ああ、そっか。そういう風にも聞こえたかな。それもある、って答え方が一番適切かなぁ」
「そう」
「あれ?それだけ?」
もっと突っ込まれるかと思ったのだが、リッセはあっさりと引いた。
「あら、聞いてもよかったのかしら」
「ものによるよ。私、これでもけっこう機密かかえてるし。別に秘密じゃなくたって、私が話したくないこともあるし」
「では聞かせて。〈根切り虫〉はどこから来たの?」
「・・・・・・それは、知らないほうがいいと思うなぁ」
「秘密ではないのね?」
「圧力はかかってるけどね。私が属しているのは一応〈クロスアウダ〉で、クロスアウダはそれに関して口をつぐめとは言ってない」
「あらまあ。圧力をかけたのは、どこかしら?」
歌うように楽しげに、リッセは問いかけを重ねた。
リッセはいいと思っていても、この場には他に二人の青年がいる。クオンはにこにこ笑っているから、リッセがいいと言えば何でもいいのだろう。アキハルは顔をこわばらせているが、聞きたそうにしていた。
「故郷の仇だからって、無茶しない?」
「相手と状況によるけれど、私、基本的に勝てぬ戦はしない主義よ」
これはずいぶんと好戦的にも聞こえるセリフである。
マナは沈黙の意味が見いだせなくなって、あっさりと吐いた。
「繚乱の都だよ」
「繚乱の・・・・・・〈カウラ〉?」
リッセが「なるほど」と言わんばかりの悪い笑みを見せる。先ほどヘイケとの会話でも〈カウラ〉の名は出ていたから、不思議でもなんでもない。
「繚乱の都〈カウラ〉。今は眠れる都とも呼ばれる。そうだな、あとは他に、科学都市の異名もあったね。人類が、最初に極地から移住した第一世代のひとつで、――今もなお、もっとも世界に影響力がある大都市だ。知ってる、よね?」
「ええ」
青年二人が硬い表情になっているというのに、リッセは相変わらずである。
「科学都市が毒に耐性ある虫を作り出して、実験場として選ばれたのが、〈マーマー〉や〈ネールラ〉、ということかしらね。でも〈マーマー〉と〈カウラ〉は場所も離れているし、貿易もそれほどなかったことを考えると、――そこで〈エウノミア〉が出てくるわけね?」
「わからないよ。今、そこを、調べてるんだから」
「あら、そうだったわ。早急な決めつけはだめねぇ」
リッセが楽しそうにしているのに、アキハルが遠い目になりはじめた。
「マナ。私はその調査に協力できると思うの」
「・・・・・・できそうだねぇ」
これはマナがあしらえる相手ではない。早急に、ヨチあたりに全部任せよう。そんな方針を決めながらマナはうなずく。
「アキハル」
「え、なに」
リッセに話を振られて、アキハルはぎょっとしている。これでそれなりに仲がいいらしいから、人間関係というものの複雑さが身に染みる。
「私は、やっぱりここに残るわ」
「・・・リッセ」
「後の移民団に参加するかどうかも、いったんは保留。白都のことはあなたに任せたいの。私はここで、あなたたちの手助けをしつつ、故郷の仇を追うわ」
「リッセ。――俺は、リッセの決めたことに反対なんかしないよ」
アキハルは苦笑しながら答えた。
「正直、リッセとクオンが来てくれないのはすごく残念だけど。でも、ここでリッセが俺たちを助けてくれるというなら、それほど心強いものもない。同時に〈マーマー〉崩壊の真実さえも追うというなら、それができるのはリッセ以外にいない。・・・ありがとう」
「こっちこそ、ありがとう。私は自分の思った通りにしか振る舞えないから、こうしてあなたにばかり負担をかけるわ。でも、あなたがいてくれて本当に良かった」
リッセが手を差し出し、アキハルがそれを握ろうと手を出す。
そんな友情の瞬間を邪魔したのは、クオンだった。
にこりと笑ってリッセの手を取り上げる。
「だめだよ、アキハル。触っちゃダメ」
「・・・・・・変な意味はどっこにもないんだけどな・・・」
「僕が嫌だからダメ」
いつも後ろに控えている青年はこういうときだけ積極的なようだ。
マナはリッセと顔を見合わせてくすくすと笑った。