No.002_33
二人でディーノの操る舟に乗せてもらい、舟の行き来が少ない水路まで案内してもらう。
「ここなら、ヒトの耳もないと思うけど」
ディーノが二人に向き直り、腰を下ろした。
誰が何を話すべきか決めていなかったのだが、ディーノに近い位置に座っていたマナがにこりと笑った。
「確かに耳も目もないね」
見回しもせずに彼女は言う。〈同調〉して周囲を探ったのだろう。
「手、貸して」
マナが右手を差し出した。ディーノは少し疑いながら、その手を握る。
三秒の空白があった。
「・・・・・・ええ、と」
「ということで、協力してもらえるかな、ディーノ・リマ」
手を繋いだようにしか見えなかった。
だが、マナは話し終えたかのように言う。一方のディーノは呆然としていた。
アキハルは心配になって、マナの肩に手をかける。
「・・・ディーノに何したんだ」
思わず尋ねると、あっさりと、
「〈共有〉だよ」
予想もしない台詞を返された。〈共有〉や〈同調〉と呼ばれるものは、樹と樹、もしくは樹とヒトの間に成立するものだと思っていた。ササキがマナについて「意識共有適合率が非常に高い」と説明していたが、こういうことなのか。
「あの、ディーノの様子・・・・・・おかしくない?」
「大丈夫、ディーノは適合率が高いから、害はないよ。たぶん」
「たぶん、とかいう確かさでそういうことはやらないほうがいいと思う・・・」
恐々とディーノの様子を見守っていたが、幸いにも数十秒後には自分を取り戻したらしい。
「・・・・・・アキハルがここに居る理由は、よくわかった」
なぜだか哀れんだ目を向けられた。
「何をどこまで話したんだ・・・?」
「全部。だけど私の主観だからなぁ・・・」
「マナが俺のことかわいそうとか思ってんだろうなっていう予測はついたよ」
時折、自分でも「苦労症っていうのかな」、と思わなくもない。
ため息をつくアキハルに対して、マナは笑っている。
一方、ディーノは真剣な表情を見せていた。
「ようは、クロスアウダから来た運送屋たちの居場所を探ればいいわけだな?」
「うん。・・・・・・いくら〈共有〉で理解を叩き込まれたからって、びっくりするくらい物分りの良いね、このヒト」
マナがディーノを指差し、アキハルを振り返って言う。
「どんな風に説明したかわからないから、俺からはなんとも言えないんだけど・・・」
「要約すると、このヒト詐欺の被害に良くあってたとかいう過去がない?って質問」
「さあ・・・俺別にディーノとそんな付き合いあったわけじゃないし・・・」
自分で説明をしておいて、なぜ理解されることに驚いているのだろうか。アキハルはむしろそこを問いたいと思う。
「詐欺にあった経験はないな」
ディーノが二人のやり取りに少し笑う。
「そりゃあ突然、政府がどうのと言われてもびっくりするしかないけどさ。マナのその不思議な力はすでに昨日見せられたし、どうやら嘘をつけるような類の力ではないってこともわかるし。それにさ、俺はテッラだから。テッラは助けを求める女の子の味方なんだ」
恥ずかしげもなく言い切った。
アキハルは全然関係ないけれど妙に恥ずかしい気分になる。テッラ系のノリにはついていけない。これこそ、アキハルがディーノと「知り合い」で終わった理由である。
一方のマナはけらけらと笑っていた。
「さっすがぁ。――ところで女の子ってだれを指してんの?」
「え、マナだよ、決まってるじゃん」
「あー・・・・・・、そっか。悪いけど、気持ちにはこたえられないよ」
演技がかった口調で、マナはそんな事を言い、首を横にふる。
「いいんだよ、俺が好きでやることだから」
こちらもまた演技っぽく答えている。――ついていけない。この二人、打ち合わせでもしていたのだろうか。
「話はこれで全部?」
「私からはね。あとは、アキハルから」
一瞬前まで完璧においていかれていたアキハルは、突然バトンを渡されて大いに戸惑う。
「ええと・・・・・・」
気を取り直す。いちいち戸惑うのは、悪い癖だ。
「リッセに伝えてほしいことがあるんだ」
――アキハルはリッセと連絡を取りたかった。
リッセ・マーマーは、アキハルと同じ開拓団員の養成過程にいた。しかし、団の最終編成で理由もわからずに落とされた。誰よりも優秀だったにもかかわらず。
彼女は養成過程で最後まで残っていた面々の、リーダー的存在。人をまとめる才能があった。
政府の真意はまだわからないが、その種類が悪意であったと今では確信している。リッセを開拓団からはずしたのは、悪意の一部だったと思えるのだ。
「リッセを、巻き込むのか」
「うん・・・・・・巻き込まなかったらむしろ怒られると思うんだ・・・・・・」
そちらが本音だが、今の状況を解決するのは、彼女がもっとも適任だと思えたのもまた事実。
「開拓団からわざとはずすくらいだ、リッセの指導力は政府も知ってる。――だから、きっと俺が何かしようと思えばリッセを頼ると、政府も予想してると思うんだ」
「そだな。俺でもそれはわかる」
ディーノは困ったように眉を下げた。
それほどに、リッセの存在は大きいのだ。
「目立たないように彼女に連絡を取りたいんだ。ディーノになら、出来るだろ?」
アキハルの確信持った問いかけに、ディーノはにやりと口角を上げた。
それは、エウノミアの水路によって育まれた文化というべき手段。