No.002_27[Songs for MANA]
巨大な都市との感覚の共有は、認識の範囲が広すぎて脳の側の処理が追いつかない。だから、少しだけの共有だ。
知識の共有も、同じことが言える。下手に奥までもぐりこむと、戻れなくなってしまう。だから、少しだけ同調して、コミュニケーションをする。
傍から見れば、眠っているようにも思えるかもしれない。
マナは今、短い草に覆われたあの場所で、陸上に放置された古い舟に背を預けている。ディーノには先ほど帰ってもらった。
(――そうか。私たちが入ったことは、もう政府に知られているんだね)
これはササキに知らせなくてはいけない。
どうやら今の立場のままで、エウノミアの〈心室〉へ行くのは難しそうだ。だからこそ、エウノミアはマナをここへと導いたのだろう。共有をして意思を伝えるために。
(エウノミア、あなたの具合のほうが心配だよ。あなたが無事でなければ、困るのはあなたの民だ。ヒトはそれを理解していないにもほどがある)
(クロスアウダが手を貸すと言っている。手の打てるうちにどうにかしなければいけない。小難しいことをするのは私じゃないんだけどね)
小難しいことを考えるのはササキとマルタミラの担当である。情報局情報部の人間、とくに外交官は口先で丸め込む技術に優れている。
(どうすればいい?ササとマルタにここへ来てもらったほうが対策を練りやすい?)
そんな提案をしても、エウノミアは答えられない。「対策」の意味をうまく理解できないでいるからだ。この樹は計算高さが皆無である。
これはエウノミアに限った話ではなかった。マナがこうして言葉を交わしてきた木々の約三分の一が、エウノミアのような感じだった。ただ民を慈しむだけ、それだけしか知らない。クロスアウダのように、人の性を理解して一番効率よく民を守るにはどうすればいいか、と考える樹は少数派だ。
(ただ慈しむだけでは滅びてしまう)
それを伝えても、エウノミアは戸惑うだけ。
言葉と言うのは、そもそも人のものだった。だから、言葉では伝わらない。
(やはり心室で、共有をしたいところなんだけどな・・・)
言葉ではダメだから、直接感覚を共有する。マナは、多くの都市と〈共有〉してきた。〈共有〉さえできれば、彼らの考え方や失敗と成功を、エウノミアにもっとも効率よく伝えられる。
だが、今は場所が悪い。心室ならば、もっと楽に共有できるし、奥に入り込みすぎて戻れなくなる危険も少なくなる。
そのためには、政府とどうにか話をつけなければならない。
(政治ってやつを、がんばってもらわなくちゃねぇ・・・・・・)
自分でやろうとは思わない。嫌いなのだ、ごちゃごちゃと考えるのが。腹立たしくなる。
感覚を共有したままそんなことを考えていたら、エウノミアがくすくすと笑い出した。――人間で言う、くすくす笑う、に近いだけだ。実際声にして笑っているのではない。どこか、いたずらっ子のような雰囲気がある。
(エウノミア?)
目を開けるように促されたので、視力を自分の感覚へと切り替える。ついでにほかの感覚も。
ゆっくりと目を開く。少し眩しい。
(何が・・・・・・?)
二度瞬いて、しっかりと視力を取り戻した。
(え・・・・・・?)
少し視界を持ち上げて、瞠目した。
花が降る。風がそよいで、エウノミアは無言の歌を響かせる。
その中に、人が立っていた。
「驚いたな・・・これはエウノミアの記憶の中かな。人間みたいな記憶を持っているね」
「ええと、・・・たぶん、ちゃんとしたマナの感覚だよ」
「本気?」
「・・・本気」
視線の先で、生真面目な顔が頷く。
エウノミアがとても楽しげに笑っているのが聞こえ、マナはつられて笑い出した。
――視線の先には、なぜか困惑するアキハルがいた。