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No.002_26[Songs for MANA]






 舟はゆっくりと止まった。
 ほんの数メートル四方の、一面が短い草に覆われている土地だった。草は日陰でも育ちやすい種類であろう。道よりも一メートルほど低い場所にあって、さらに橋と建物の陰になるために、おそらく道からは見えない。
 ディーノが岸に舟をつけるのを待ってから、マナはその小さな緑の地に降り立った。
 一隻の古い舟が、置かれている。それ以外には何もない。
「どう?」
「・・・・・・綺麗だ」
「だよね」
 隠れ家のような雰囲気が、気分を高揚させる。それでいて、場所そのものは神聖ささえ漂わせる。
「最後に案内しようと思ったんだけどな。――もしかして、誰かに聞いたことあった?」
「いや・・・・・・知らなかったよ。〈エウノミア〉が呼んでくれたんじゃないかな」
 あの一瞬の同調は、エウノミアの意思だったのだと思えた。
 マナは本気だったのだが、ディーノは冗談ととったようだった。
「気に入ってもらえたみたいでよかった」
 ディーノは舟をロープで岸と繋いで、マナの傍へとやってきた。
「ね、お礼、もらっていい?」
 ディーノが、景色に見とれるマナの視界に入り込んだ。満面の笑みである。
 マナは笑顔を返した。そして、
「そうだね。これがお礼になるかわからないけれど、ひとつ、君に」
 ディーノの手をとる。彼はきょとんとした。
 相手の疑問には構わずに、マナは〈脈〉を探し、あたりにあふれる音から〈エウノミア〉の旋律を探し出す。
 静かなる、無言の歌。
(――はじめまして、〈エウノミア〉)
 繋がった。

「――ようこそ、わが都へ。歓迎します、一族の愛し子〈マナ〉よ」

 二人の右側、陸に置かれた舟を背後にそれは立っていた。――ヒトではない。それは色からして明らかだ。地面につくほどに長い髪は、わずかな時間差す木漏れ日を浴びた、苔の色だった。顔立ちは、東の民に似ている。目は透明感のあるこげ茶色の一色。虹彩や瞳といった部分はない。
「ありがとう、エウノミア。あなたの民が造った都市は本当に美しい。それに、ここに住むヒトも美しいようです。彼はとても親切だった」
 マナが答えながらディーノの様子をうかがう。ディーノは目を見開いて、硬直していた。
「ディーノ?」
「ええと・・・・・・」
「どうしたのさ。あいさつしないの?」
 彼の反応が楽しくて、マナはくすくす笑う。エウノミアはやさしい微笑をたたえて、己の民を見つめていた。






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