No.002_25[Songs for MANA]
大水路は、舟だらけで混み合っている。だからこそ楽しい。笑い声怒鳴り声歓声。
船上商店を見つけて、ディーノに止まってくれと頼む。
「すごい、舟でお店やってる」
「見るの初めて?」
「今まで行った街にはなかったよ」
商店は、軽食を売る店だった。小麦の粉を練って焼いたものに、その場でいろいろと挟んで渡してくれるシステムだ。
マナが「お勧めを」と頼むと、その場で皮をむいたフルーツとクリームを挟んで、紙でそれをくるんで渡してくれる。
新鮮なクリームだ。おいしい、と漏らすと店主はさらにもうひとつ包んでくれた。サービスだという。
そのもうひとつをディーノにあげて、ゆっくりと舟を進ませながらしゃべる。
「嗜好品を売るっていう発想が、そもそも大都市のものなんだよね」
「じゃ、俺たちって贅沢してんのかな」
「そうだと思うよ。――一世代から三世代の都市から出る開拓団に失敗が多いのは、そのせいかもしれないね」
「贅沢に慣れすぎ?」
「うん。開拓団は原始生活から始めなきゃいけないから」
「開拓団ねぇ・・・・・・」
第一世代は〈カウラ〉〈ティティカカ〉〈リマ〉そして〈ムサ〉〈アティナ〉の五都市である。先の三都市から移民と言う形で出来た〈ムサ〉と〈アティナ〉を第二世代とする場合もあるが、一般的にはこの五都市を始祖とし、第一世代と呼ぶ。
第二世代は初めて人間が開拓団と言う形で版図を広げ始めた約百年にできた都市で、〈エウノミア〉がこれに含まれる。
第三世代は、一世代の子と二世代の子、両方が含まれる。いずれも都市の歴史が三百年くらいのものを言う。
すべて、今では大都市だ。
近年の傾向として、中堅都市から出た開拓団の成功率が高く、それ以上の規模の都市からとなると十五パーセントほど落ちる。あまり若い都市からだと、やはり教育や支援が充分ではなかったための失敗がある。
「・・・・・・第六開拓団は、どーなったかなぁ」
舟を漕ぎながらディーノがつぶやいた。
マナははっとする。――白都開拓団は、確かエウノミア発第六開拓団、ではなかったか。
「〈マーマー〉の遺児?」
たずね返すと、ディーノが驚いている。
「ええっと・・・そう。〈マーマー〉の・・・知ってるのか?」
「うん」
「会ったの?」
「会ったよ。ちょっとトラブルに遭ってたけど、たぶん平気」
ちょっとどころではないのだが、――マナはトラブルを解決しに来たようなものなのだが――、開拓団自体はたぶん平気だろう。クロスアウダが支援をする予定だから。
「そっか。ちょっと心配だったんだよね」
「・・・なんで?」
開拓団メンバーに知り合いでもいるのだろうか。それとも、悪い噂がエウノミアの中であるのか。――悪い噂なら、マルタミラが入手していてもいい。だが、そんな情報は入ってきていない。
「縁のある子が一人メンバーにいてね。あと、呪われた六番、なんて話もあるし」
「六って、縁起が悪いの?」
「エウノミアでは。――エウノミアはこの五百年弱の間に、二十五の開拓団を出してる。でも成功したのは、五つだけ」
開拓団の成功率は最近六十パーセントを超えた。初期から開拓団を出し続けているエウノミアとなれば、その数字は妥当だ。ほかの都市の多くは通し番号にするのだが、エウノミアでは成功した都市だけ数えて、ナンバーをつけるらしい。
「複数の開拓団が同時に出ていた時期があるから、第九開拓団まで存在するんだけど、第七開拓団は成功したんだよね。埋まらない第六って呼ばれてるんだけど、今回の開拓団、第六の名前をもらうの六番目で。そのうえ今のところ五回連続で、失敗してる。第六開拓団で失敗すれば六回目で、――ついでにメンバーも六人」
「うわあ・・・・・・」
げんなりしてしまう。一方で、あのアキハルが押し付けられるにふさわしい曰くつき具合ではないかと感心する。
「あと、エウノミアの子じゃないしね。セイア系が差別してるんじゃないかって噂はあったよ」
セイア系とは、エウノミアの住民の大多数を占める、旧世界では大陸中央に住んでいた民族である。ディーノはメディウス・テッラ。アキハルやユウセイは極東。ヴィルジニはセイラン系。とは言うものの、現在では多くが交じり合って、明確な線引きが難しい。若い都市ほどその傾向が強いし、移民が多いクロスアウダでは旧世界の民族区分を聞くなどナンセンスだとされている。
「メディウス・テッラも、差別される?」
というかこのノリとお堅いセイア系は合わないのではなかろうか。アキハルとセイア系は合いそうだが。――そんな心配もあったのだが、ディーノはあっさりと首振った。
「ないよ。テッラだセイアだって言っても、所詮千年前の民族単位だよ。――たださ。マーマー難民を受け入れるのに、国民は『いいじゃん』って雰囲気だったのに、政府は渋ってた、っていう過去もあったから、邪推してる人がいるってだけ」
邪推、考えすぎ、ならばいいのだが。
しかし白都開拓団に対するエウノミア政府の悪意は、明らかといってよかった。
マーマー難民を受け入れる時点で、渋っていた?――いやそれは知っている。負担を考えれば渋っても不思議ではない。
だが。
エウノミア政府は、難民を受け入れたときの負担ではなくて、ほかの何かを理由に受け入れを嫌がった可能性も考えられないか。
思案に沈むマナに気を使ってか、ディーノはしばらく黙っていた。
舟は細い水路へと入り、あたりは静かになる。時折別の舟とすれ違い、船頭同士が「〈オーヌ〉」と挨拶を交わす。
水路脇の道を行く人の姿が見えた。水が光を反射して、ヴェールに当たると透けたり反射したり、さまざまな色を見せる。旧世界からの文化だが、エウノミアという街によく似合っていると思う。
思考がやがてとりとめもないことに変わった頃、不意に感覚器が強く刺激された。
香りが聞こえ、音が見えて、色彩は旋律を奏でる。感知できる世界がいっきに広がって・・・・・・!
(〈脈〉か・・・?!)
すべての感覚器を同時に揺さぶられた。――一瞬無意識のうちに同調したのだ。
ここのあたりに、〈エウノミア〉の脈が強い場所がある。
普通〈共有〉するならば、樹の傍がいい。〈心室〉やセントラルホールと呼ばれる場所ならば完璧だ。
だが時折、距離を置いてもつながりやすい場所というのが時折ある。
「ディーノ」
「なんだい」
「このあたりで公園とかある?」
「いや・・・・・・?」
「水路沿い、だろうな。人の目から見て、綺麗だと思う。あまり、人がこない場所だといいな・・・」
前の二つの条件は経験則。最後のは願望だ。
だが驚いたことに、ディーノは「ああ」とうなずいだ。
「いいところあるよ、案内する」
そして、マナが希望したとおりの場所へと舟を進めた。