No.002_23[Songs for MANA]
マルタミラはクロスアウダ出身だ。もともと情報部の外交官で、クロスアウダ在住当時は主に〈マーマー〉担当だった。
その当時も〈エウノミア〉との関係が思わしくなかったクロスアウダ情報局は、ひとつの策を講じる。
というのが、マルタミラを〈マーマー〉からの難民としてエウノミアに移住させることだった。〈マーマー〉の内情をよく知っていた彼女は、エウノミアで疑われることもなく、現在は政府の人間さえ時折利用する宿屋を経営している。
情報部の外交官ということで、当然のことながらササキとは同僚である。
「どうだ、エウノミアの内情は」
案内された部屋で、窓から通りを見下ろしながら、ササキはマルタミラに話しかける。マルタミラは肩をすくめた。
「大きい都市らしい、というべきね。複雑よ。目の行き届かないところも出てくる」
「悪くはないのか」
「その辺は報告してるでしょ。貧しさがないからこそ出てくる問題ってのはあるの」
「そうか・・・・・・いや、わかっているんだが」
ササキは繚乱の都〈カウラ〉出身である。カウラは科学都市の異名を取る、第一世代。つまり、最も古く巨大な都市だ。そのために、彼は大きな都市らしい問題を内情から知っている。
マナは二人の会話をなんとなく聞いている。――マナは政治に興味がない。クロスアウダの中枢近くで育ったために、そういう世界があることは理解しているし、現在もこうして関わっている。だが、正直どうでもいい。
これを口にすると、ササキは真面目に説教を始める。
複雑化していてわかりにくいのは確かだが、これはおまえ自身の生活の基盤を作るもの。白き大地に基盤樹が根付いて初めて都市ができるのと同じこと。興味がなくとも、理解し、常に情報を取り入れろ、――と。
ササキのことは好きだが、ああいうところは面倒でたまらない。
「ねえ、私、街に出ていいかな」
二人の話が長く専門的になりそうな気配を嗅ぎ取って、さっさとマナは提案した。
「あら、マナはエウノミアに来るの初めてでしょ?ちょっと待ってくれたら、あたしが案内するわよ」
「大丈夫だよ、案内は改めてお願いする」
しかし、マナの意図などササキにはお見通しだ。
「マナ。少しはマルタの話を聞いておけ。お前は無関係じゃいられないんだ」
「〈共有〉してくれたらいいよ」
「マナ」
「・・・・・・」
本当に、面倒でたまらない。
そのやり取りにマルタミラが笑った。
「あらやだ、ノアってば父親みたいね」
「マルタ、笑い飛ばせる話じゃない。マナは嫌でもこれと隣りあわせで生きていくんだ」
「将来必要だから勉強しておきなさいって?――マナも大変ねぇ。クロスにカルシュにノアまでがみがみ言うんだから」
「エリーとかミヤもけっこうがみがみ言うよ」
「がみがみ言われるほどに、あんたは幼いの。ちょっとは大人になりなさい」
「なぁんだ、マルタミラも結局お説教かぁ」
味方をしてくれるのかと思ったらこれだ。局の人間の大半も、マルタミラと同じような言い分だった。
「とにかく私は遊んできますっ」
「はいはい、行っておいで」
あっさりと許可するマルタミラに、
「マルタ!」
「そういうお年頃なんだから距離を置いてみなさいよ、パパ」
まだまだ説教を始めそうなササキを任せて、マナは逃げるように街へと出た。