No.002_22[Songs for MANA]
エウノミアは第二世代と呼ばれる古い都市だ。開拓団の手によって作られたという意味では、最も古い世代である。
街の規模は大きく、華やかだ。
水路がくもの巣のように規則的に広がり、街もそれに合わせて放射状となる。
交通手段のメインは小舟だ。古い区画では道がつながっておらず、舟がもっとも近道ということも珍しくない。地上はつながっていなくても、建物同士が空中回廊で結ばれているところもよく見かける。
「美しいな」
ササキが花びらを降らせる基盤樹を仰ぎながら洩らした。
街はにぎやかで、行きかう人々に活気があふれている。
「そうだね。――これで滅びの危機だなんて思う人はなかなかいないだろうね」
マナが答えた。
二人とも、大地を渡る装備を解いていない。ササキは木刀を腰に差したままだ。
そのために、ちらちらと人々が振り返る。
運送屋という職業は、この時代にはなくてはならない存在だ。知名度は高く、どんな存在であるかも詳しく知られている。だが街中で運送屋の装備を解かないことは、珍しい。さらに、許可されているとはいえ、木刀や木剣を持ったままであることも。
普段ならば郊外にある運送屋関連の施設で着替えるのだが、今回はそれをやっていなかった。一種のパフォーマンスだと、ササキは言った。
「人の心に、何事かという疑いを植えつける。そうすれば、それに関連した知らせを後から受けたときに、興味を持ちやすい」
それほど深く理解できたわけではないのだが、マナはふうんとうなずいておいた。
彼らが向かう先は宿屋である。――表向きの宿屋を装った、クロスアウダ情報局の出張所。
普通なら大使館があってもいいのだが、ない。それだけエウノミアとクロスアウダの仲は深刻だった。
宿屋というのは、大きな都市にしか存在しない。普通ならば、政府管理の宿舎や運送や関連施設で事足りるからだ。この宿屋の利用者は都市内に住む人々で、主に仕事での出張時に利用する。――大都市というのは、周囲に衛星都市があり、全体の規模は二十キロほどにもなるからだ。
宿屋をやっていれば、内情をよく知ることができる。そういう理由での宿屋経営なのであった。
看板の下げられた店が立ち並ぶ通りを行く。目立つことも、だからといって埋もれることもない風体で、その宿屋はあった。名を、〈エリーゼ〉としている。
ドアを開けると、ベルが鳴った。音に敏感な耳を持つマナには、少々障る、高い音だ。
入り口正面にカウンター、周囲はソファとテーブルが置かれ、休めるようになっていた。
二人が入ったときには無人で、ベルの音を聞いて奥から人が出てくる。
「あいあーい、いらっしゃいよー」
出てきたのは、洗濯物がいっぱい入ったかごを抱えたふくよかな女性だった。年齢は四十前後。
彼女はササキとマナの姿を見て、目を見開く。
「・・・・・・あー、久しぶり」
「なんだその間抜けな挨拶は」
「いや、だって。このまえ入国拒否されたとか言うしさあ?――どうやったの?」
「ウラワザだ」
「あっはー!よくわかったわ。やるね」
女性は洗濯籠を置いて、ササキとマナの前までやってきた。ササキと手を打ち合わせて、再会を喜ぶ。
「ええと、マナだね?」
「うん。久しぶり、マルタミラ」
「大きくなったね。聞いてるよ、ちゃんと仕事してるらしいじゃないか」
女性――マルタミラはマナの頭をいとおしげに撫でた。