No.002_18
今日で十日目。
アキハルは宿舎の中庭で朝の澄んだ空を見上げて思った。
カイシア=クロスアウダ市に滞在して、ずいぶん時間が過ぎたように思う。その間、隣のエナ市の開発を見学し、カイシア市内の学校や市役所のシステムを見学して時間をつぶしている。――クロスアウダは、世界最大の都市郡だ。クロスアウダを名乗る市のほとんどが互いに連結し、情報を共有している。すなわち、百キロ以上離れた都市だとしても、連結していれば互いの街で起こったことを瞬時に伝えることが出来るのだ。
この情報網を利用し、治安維持等につとめるのがクロスアウダ情報局。内部は情報部、治安維持部、入国管理部に分かれていている。
ササキは、情報部に在籍していると言う。正確には、情報部の外交担当。
アキハルも、白都を根付かせたら都市として整備していかなければならない。それは物理的な意味でもそうだし、都市運営に必要な組織もその対象だ。
エウノミア市が嫌っているという情報局。それをぜひともよく知りたいと思った。
だが政府への監査権限すら持つ組織だとも聞いている。その内情を、外国人に詳しく教えるとは思えない。
ササキとミヤモトはカイシア市滞在の二日目から、アキハルたちの前に姿を見せない。マナは滞在一日目からすでに見えない。――彼らになら聞きやすかったのに。
ひとつため息をついて、アキハルは宿舎の中へと入る。
アキハルは昔から早起き体質だ。そのために、みんなが起き出してくる頃にはすぐ活動できる準備が整っている。
一人早めに朝食を取って、ヴィルジニに出かけることを告げて、宿舎を出る。
宿舎があるのは、街の端だ。そこから、中心街へと足を向ける。
開拓団の守護樹である白都の様子を確認するのは日課。守護樹はセルシャ市でそうであったように、カイシア市の揺り籠で保護されている。
最近では、時折だが白都の木霊が現れる。言葉を交わせるというのは感動的だった。
ほんの短い時間だが、クロスアウダで見学したことを喋ったり、「将来どんな都市にしたい」なんてことを互いに語ったりする。新たな友を得たようだ。
「そろそろ、休みます」
白都はそういって、姿を消す。
人の姿を模すことは、若木にとってかなり負担なのだという。
〈揺り籠〉を出て、今日の予定をどうしようか考えていたときだった。
「アキハル・サトミ?」
声をかけられて、振り返る。振り返りながら、違和感を覚えた。
通り過ぎたばかりの〈揺り籠〉への出入り口――といっても、蔦の絡まるアーチ上の門があるばかりだが――に、青年が立っていた。
くすんだ印象を受ける緑の瞳と、マナのそれより少し濃い亜麻色の髪。体格は、これぞ平均値と手を叩きたくなるほどに特徴がない。
くすくすという笑いを漏らしながら、青年はアキハルに歩み寄った。
「あの・・・どなたでしょうか」
「その質問は実に面白いよ、アキハル。君はもう僕を知っている」
「・・・・・・」
本気でやばい人かな、と考える。その不信がる内心はすぐに彼に伝わったらしい。
あっさりと青年は答えを言った。
「遅ればせながら、ようこそカイシア=クロスアウダへ。簡単にいうならば、僕はこの連結都市の意識。人は僕を〈クロスアウダ〉と呼ぶ」
クロスアウダがすっと頭を下げる。この地域では、歓迎をあらわすしぐさだ。
「え、あ・・・クロス、アウダ?」
アキハルは驚きながら、頭を下げた。――こちらは目上に対する敬意を表す。
「君と話がしたかったんだ。ところが情報局のみんながやめておけと言う。酷いよね、一応僕が局のトップなのに、ぜんぜん意見が通らないんだ」
すねたように口を尖らせるクロスアウダ。他の者が止める理由の一端が早くも見えたような気がする。――が、この時アキハルは沈黙を選ぶ。
「さて、アキハル。こんなところで立ち話もなんだ。――場所を移さないかい?」