No.002_16
あっさりと反対をくらった。
「なかなか愚かなことを言うね。大学出とは思えないな」
しかもたいそう馬鹿にされた。学歴コンプレックスでもあるのかと勘ぐってしまいたくなるほどだ。
はっきりと反対したのはミヤモト。ササキは無言で腕を組み、首だけでミヤモトに賛成している。
その場にいた情報局の局員だという青年が、ミヤモトのはっきりしすぎた言い様に顔を引きつらせている。
「ミヤさん、もうちょっと言い方があるんじゃないすか?」
だがミヤモトは首を横に振る。
「ほかのメンバーに隠すって、どこまで隠す気だ。覚悟を持って行かなけりゃ死ぬのが白き大地だ。お前一人が行くわけじゃないのに、なんでそんな大事な情報を出し惜しみする?それになんだ、護衛役にまで、変な気を遣わせようって言うのか。阿呆か、お前は」
エナ=クロスアウダ市の小会議室で、アキハルは結果として小さくなって怒られていた。
日はすでに落ち、会議室には明かりが入れられていた。明かりは、昼間の太陽光エネルギーを蓄電したものを使うのが一般的である。発電機に生産量の限界があるので一般家庭にはあまり普及せず、公共機関だけに使われている。
そろそろミヤモトからの暴言もとい説教もいやになってきた。と、そこへササキが止めに入った。
「まあ、気持ちはわからないでもない」
「マジで。お前、どっかおかしいんじゃないの?」
ミヤモトが即座にそんなことを言う。ササキはミヤモトをにらみつけて黙らせた。――と言っても、ミヤモトにそのにらみが聞いた様子はない。彼女は肩をすくめただけだった。この二人の関係は、付き合いの浅いアキハルには理解が及ばない。
「ミヤの言うことは全面的に正しい。だが感情はそうもいかないだろう。事実を言ってしまった後も、開拓団が今まで通りまとまっていられるかどうか、わからないんだぞ。まとまりのない開拓団は危険だ。少人数なんだから、なおさらに」
その意見に、局員が賛成する。
「失敗した開拓の半分は、メンバーが不仲って言います。程度の差はあるでしょうけどね、だけどメンバーの間で温度差があるのは、確かにかなり不安です。アキハルくんが隠したい気持ちも、もっともです」
アキハルはすでにこの議論に加わることを放棄していた。実質、決定権は彼らにある。アキハルは所詮素人だ。実のところ、「明かりをつけているのももったいないし、さっさと寝たらどうだろう」、なんて提案をしたくてうずうずしている。――間違えた。いらいらしている。
(わかってる。これは俺のわがままだ)
自分の想いを、蔑ろにされている気分だった。実際は、自分が無知ゆえに感情に流されるのだろうと予想はついている。だからといって、割り切れるものではない。
「――アキハルの気持ちがどうであれ、いい加減結論をださないか?」
発言者はミヤモトである。彼女はとことん現実主義のようだった。はっきりと、アキハルを無視しようとまで言うのだから、いっそ清々しい。
「僕は、クロスの意見を聞いてからでもいいと思いますよ。というか、クロスに決断も告知も任せたらどうです?」
局員が言う。彼の言う「クロス」とは、この都市〈クロスアウダ〉のことだ。マナも、時折そんなふうに言っていた。
エウノミア市の基盤樹〈エウノミア〉は、あまり人前に木霊姿で現れなかった。アキハルの中では存在感が薄い。ゆえに、人に対するかのように樹のことを語る彼らに何度も違和感を持った。
「クロスアウダに告知をさせる・・・・・・?恐ろしいことにしかならないんじゃないか?」
ミヤモトが顔を引きつらせ、ササキが苦い顔で遠くを見やる。
「いくらクロスでも、それは・・・ないでしょう?」
「いや、あるぞ。あれなら」
「・・・・・・否定できん」
知らないものが不安になる会話をしないでほしいと心から思うアキハルだった。
三人の間にいやな沈黙が下りる。――アキハルは当然のことながら、先ほどからずっと沈黙で、居ないも同然だ。
沈黙が続き、アキハルの不安最高潮に達する直前になってようやく、ササキが重々しく口を開いた。
「クロスの意見を聞くっていうのは、賛成だ」
「・・・じゃあ僕、今夜中にカイシアに報告に行きますね・・・?」
「・・・・・・ああ」
歯切れの悪い会話だった。
居心地悪い空気の中、すぐさま局員が部屋を出る準備を始めた。
「・・・今から、報告に行くって、どちらへ?」
尋ねると、局員ではなくササキが答えた。
「隣の市だ。カイシア=クロスアウダ市という」
「今から?」
「門と門の間は、一キロメートルも離れていないんだ。連結都市の利点だな。白き大地に出ることなく、都市間を移動できる。夜も、危険はほとんどない」
さすが、連結都市。世界の街道は昼夜問わず移動可能なのか、と感嘆する。
移民団や開拓団も、東西の移動となればクロスアウダを通るという。アキハルたちの開拓団は、北へずれるので通る予定はなかったのだが。
「ササが直接〈共有〉すればいいのにー・・・なんで僕をわざわざ通すかなー・・・嫌だなぁ・・・」
局員がそんな呟きを漏らしながら、音を立ててドアを閉める。
アキハルは先ほどの彼らの会話を反芻しつつ、しばし考え込む。
「恐ろしいこと」?「否定できん」?「嫌」?
「・・・・・・クロスアウダって、なんか性格に問題あるんですか?」
樹の性格、というのもアキハルはいまいちピンとこないでいる。
残った二人の運送屋からは、無言が返るばかりだった。