No.002_15 [Songs for MANA]
「クロス」
エナ市のセントラルホール。
人気のなくなったそこで、マナは声をかけた。
びりびりと雑音交じりで弱い音だが、返答がある。
「――やあ、おかえり。一族のマナ」
すっと現れたのは、クロスアウダの木霊だ。
多くの樹が女性や中性的な人間を真似るが、クロスアウダはくせ毛の青年姿をとっていた。濃い茶色の髪に、深緑の瞳。人間を真似る技術は、どの都市と比べても上手い。
「ああ、脈が強まったと思ったら、やっぱり。連結したんだね」
「うん。ついさっき、根がつながった。まだまだノイズが多いけど」
クロスアウダが言うまでもなく、届いてくる声と姿にはノイズが混ざっている。
「手っ取り早く〈共有〉する?」
「いや、無理だ。まだ通信を制限しないと、エナがだめになる」
「じゃあ明日すぐに、カイシア市に移動するよ。話にならない」
カイシア市はエナ市の隣だ。門から門の距離は、一キロメートル弱。非常に近い。
「とりあえず、要点だけ君の口から聞かせてくれないかい?」
「〈マーマー〉の遺児の通称は白都。開拓団は、エウノミア政府になぜか厭われてる」
「厭われている?」
「まず政府が用意した護衛役の運送屋は、エウノミア籍じゃなかった。旧マーマー籍や、マーマーに近しい運送屋だったならまだ理解できるけれど、どちらでもない。一人がフィオナ市、もう一人が、リマ市の籍だった」
「ほう」
クロスアウダが眉を寄せる。非常に人間らしい動きだ。
「その二人は、開拓団がセルシャに着くなり離れたらしい。政府の指示があったんじゃないかな」
「指示、もしくは圧力、だな」
「どちらであってもいい気持ちがするもんじゃないけどね。――それと、出発直前に、樹医と大工の役目を負ったメンバーが、軽い風邪を理由にはずされたらしい」
「たかが風邪で?家、建てない気?」
どこかで聞いた台詞である。マナは、誰かと同じように苦笑した。
「他のメンバーがカバーできるんだって。たった六人で、どうにかなるとも思えないんだけど」
「多ければいいってもんでもないけどね」
「同感だけど、少なすぎるよ。――あと、風邪ではずされたメンバーがいるのに、呼吸器が致命的に弱いメンバーが一人。名前はヴィルジニ・マーマー」
「あらあら」
「とりあえず、明日までに護衛役放棄した運送屋のデータ、出しておいてほしいんだけど」
「オーケィ、誰かに徹夜させる」
マナは憐れな局員に届かぬエールを送る。クロスアウダは、ヒトの感覚を理解できないために、人使いが荒いのだ。
「ねぇ、――私、エウノミアに一度行っておこうと思うんだけど」
その提案に、クロスアウダは厳しい表情を見せた。
エウノミア市に行こうと思ったのは、セルシャ市に到着したその日だ。アキハルたちのことを聞いて、耳を疑い、エウノミア政府を疑った。
エウノミア市では、何か起こっている。
基盤樹であるエウノミアが政府に口を出せる状態にあるならば、今回のことは絶対に起こらなかった。樹は、慈愛の生き物だから。
「・・・・・・しかし、マーマーの遺児はどうするつもりだ。その開拓団も。君が補ってあげるべきじゃないの?」
「実は、ついていけるかどうか、微妙なところ。女の子たちに嫌われちゃった」
「嫌われるとは、めずらしい。君って、第一印象だけはいいのに」
「失礼だな。――もし、ついていけることになっても、私一人なら追いつけるよ。それまで、誰かクロス直属の運送屋を出して欲しいんだ。エリーとか、今どうなの?」
歴戦の運送屋の名を挙げるが、クロスアウダはあっさり却下した。
「エリシア?無理だよ、今はメルバ市にいる」
「また出張?」
「うん。あそこも問題多いから。――しかしなぁ・・・エウノミアか。わかった、中央で検討してみる。数日かかると思うけど、いいかな」
「かまわないよ。開拓団は、クロスアウダが護衛を決めない限り動けないんだから」
「その間、クロスアウダ伝いに移動してもらおうか。――カイシア、トルカ、ミスティゲルタ、フェンネラ、デーナー、ついでにエルザにも寄ってもらっちゃう?」
「またばかなことを。リーダーはものすっごいカタブツだよ。エルザ・システムになんか反対に決まってる。変なこと考えてないで、さっさと案件のひとつでも片付けなよ」
「君はリーダーに会って、数日だろう?今結論するのは早急すぎる。中央までは距離があるんだから、僕自身が人となりを見極めるよ」
クロスアウダは飄々と言い切った。
マナはふん、と鼻で息を吐き、冷たい視線を向ける。
「人となり?エルザ・システム使っておいて、よく言えた台詞だよ」
クロスアウダにはまったく効き目がない。
同時に、映像にノイズがひどく混じり始めた。やはりまだ安定しないようだ。クロスアウダもそれに気づき、退散の意を告げた。
「カイシアで待ってる。じゃあね」
「うん。開拓団のみんなに会うつもりなら、少しは威厳ある感じで出てきてね」
最後の言葉が届いたかどうか、微妙なところでクロスアウダの姿が消えた。
(うっわ、わざと途中で切りやがった!)
どこまでも人間臭いクロスアウダの言動に、マナは呆れた。
上を見て、ふっと息をつく。
明日からのことを思うと、気が重い。