No.002_11
連結都市〈クロスアウダ〉。
大陸のやや北西にその首都・中央クロスアウダ市があり、ここを中心に東西に長く連なる都市群をそのように呼ぶ。
〈クロスアウダ〉は移動困難なこの世界における、街道であり、物品の集積地である。特に、貿易のほとんどはここを中心に行われている。そのために、運送屋の在籍数は世界一。運送協会も中央クロスアウダ市に本部を置く。
そして、新たに都市を作る役目を負った開拓団も、多くがここを通る。
「ようこそ、エナ=クロスアウダへ!」
入国審査官――通称門番の張りのある声が、白紙地と都市の境で響き渡る。
疲れきっていたアキハルたち開拓団メンバーは、その大きく明るい声にぎょっとした。同行者である二人の運送屋、ササキとミヤモト、そしてなぜか一緒についてきているマナは慣れた様子である。
「入国審査をいたしますので、身分証をご提示ください」
門番の声音は相変わらず明るさに満ちている。
身分証は、アキハルが見せれば事足りる。アキハルが持つものは、開拓団メンバー六人の名前や、これの発行元であるエウノミア市の紋章が刻まれている。
「ええと、これで」
「エウノミア発、第六開拓団。リーダーアキハル。メンバーは・・・六人」
開拓団の照合作業を終えると、今度は運送屋たちとマナである。ところがこの三人、軽く手を上げて挨拶しただけで終わった。
「門番お疲れ」
「そっちこそ、外回りお疲れ」
――セルシャで自分たちの身分を、クロスアウダ情報局にゆかりあるものだ、とササキは言った。
「・・・お知り合いで?」
「局の同僚だ・・・あー、」
ササキが何気なく答えてすぐ、何かミスをしたといわんばかりの反応をする。が、すぐに開き直った。
「クロスアウダ市の入国審査は、全部情報局の局員がやっている」
「・・・同僚って事は、ササキさんたちは、情報局の人なんですか?」
「厳密には違うが、平たく言うとそうだ」
いままで何の意図があって「ゆかりあるもの」とぼかした表現をしたのかは知れないが、ずいぶんあっさりと白状した。
「ササ、いいの?」
ミヤモトが問う。
「構わん。彼らは情報局を知らなかったし」
「まあ、そうだね」
とにかく疲れていたので、アキハルは質問を後回しにしようと結論する。
守護樹である白都の鉢を門番に預け、勝手を知っているらしいササキたちの案内で、アキハルたちはエナ=クロスアウダ市の市役所横の宿泊施設にたどり着く。
ここは外からの訪問者のための宿舎であると同時に、エナ市の官舎でもあるという。
「エナ市は前に言ったとおり、正式登録されていない。来年の世界会議で登録申請予定、クロスアウダの三十二番都市。ここに住んでいるのは入植準備のための公務員だけ。来月に、一般の移住の公募が始まるよ」
荷物を降ろし、旅装を解く開拓団の面々に、マナが説明をしている。
「おもしろいわ。以前聞いた話だと衛星都市と似ていると思ったけど、それとはどこが違ってくるの?」
尋ねるのはヴィルジニだ。アスカとフィフィーには思いっきり不信感を持たれているマナだが、ヴィルジニとはうまくやっているようだった。そのことに、アスカとフィフィーはまた不満を持っている。
ユウセイとシェローはすっかりマナと打ち解けていた。二人いわく「弟みたい」である。団員たちに最初に見せた行動からしてもそうなのだが、マナはいたずらっ子の面がある。おそらくここから「弟」のような親しみを持つのだろう。
アキハルには兄弟がない。そのために、彼らの言う感覚はわからなかった。――心に正直になることを躊躇わなければ、マナのそれに対しては「悪質」「厄介」「いい迷惑」の言葉が並ぶ。
ユウセイとシェローは、女性たちの険悪な雰囲気を無視できる神経を持ち合わせているのだ。シェローにいたっては、気づいているかどうかすら怪しい。
心底、その図太さがうらやましかった。
ササキとミヤモトは、彼らが引き受けていた開拓団の荷物を置くと、旅装も解かぬままに市役所へ行くと言い出した。
「君たちはここで体を休めているといい。クロスアウダに報告して、今後のことを話し合う。後任の手配も同時にしてくるつもりだ」
「後任の手配なら、俺も行ったほうがいいんじゃないですか?」
アキハルが尋ねると、ササキは首を振った。
「報告っていうのが、君たちの事だけじゃない。外回りといって、周囲の都市の情報を集めてくるのが俺の仕事だ。全部報告していたら、随分遅くなる。君たちが必要なときには、また迎えを呼ぶ」
「・・・そうですか」
クロスアウダ情報局という組織のシステムはいまいちわからないために、強くは言えない。従うしかなかった。
「マナ、頼みがある」
「うん?構わないけど、なに?」
「ヴィルジニを医務室に連れて行ってやってくれ」
「ああ、なるほど」
名前を出されたヴィルジニは複雑な表情を見せる。四日前まで入院していたヴィルジニは、当然だが開拓団の足を引っ張っていた。それを気にしているのだ。
「俺も行くよ」
ヴィルジニにそう声をかけると、柔らかな微笑が返ってきた。
アキハルとヴィルジニの間にあるのは、いつもこういった穏やかでやさしい空気だ。
ヴィルジニは穏やかな気性で、声を荒げることなんて無い。知識豊富なのだが、ひけらかすような事は無く、誰もが手詰まりになりそうだと思ったときにそっと助けてくれる。
だから出来るだけ返してあげたいと思う。アキハルは要領よく立ち回れないから、細やかなところまで配慮が行き届かない。それを謝ると、やっぱりやわらかく微笑んで「そんなこと気にしていたの?今のままで充分よ」と彼女は言うのだ。
自分たちが上手くいっていないとは思えない。――ミヤモトに言った事は事実だ。今も、これを強く疑えない。