No.002_08 [Songs for MANA]




 黙々と歩く。――白き大地に足跡をつけていく。足跡は半刻もすれば、白き毒に埋められていく。自分たちがこの地を歩いた証など、どこにも残りはしない。
 人の息遣い。大地を踏む音。守護樹を運ぶ台車の音。衣擦れ。そして、大地を支配するのは、静寂のアリア。
(最悪だ)
 開拓団の最後尾を歩きながら、マナは毒づく。
 美しき花と水の都の遺児が、粗末な台車に乗せられて、貧相な開拓団によって、はるか辺境の地へと運ばれる。これを最悪と言わず、なんと言おうか。
(マーマー、あなたは何がために滅びの道を選んだ?慈しむべき己の民に、茨の道を歩ませるためか)
 記憶に中に居座るマーマーへ、何度呪いの言葉を吐きたくなったことだろうか。
 マナが花と水の都と呼ばれた〈マーマー〉を訪ねたのは五年も前のことだった。マーマーとはそのときに少しだけ言葉を交わした。わかりあえなかった。マナの言葉はマーマーに通じず、マーマーの言葉はいまだにマナの理解が及ばない。

 ――たった六人の、〈始まりの民〉。二人の〈運送屋〉。そしてマナ。

「――嵐だ」
 ふいにマナの隣を行くササキが苦々しく呟いた。
 一行はぎょっとして歩みを止めた。――そしてササキのもとに、先頭を務めていたミヤモトがやってくる。ミヤモトに手招きされて、開拓団のリーダー・アキハルも。
「白き嵐・・・?」
 こわばった顔で疑問を口にしたのはアキハルだった。ミヤモトが、綺麗な顔にしわを寄せてうなずく。
「ああ、最悪のタイミングだな。見ての通り陰になるものがない上に、エナ市の白紙地帯までまだ距離がある」
「どうすれば・・・」
「不安がるようなものじゃない。吹き飛ばされるわけじゃあるまいし。――このまま歩き続けることだって出来る。そうするつもりならマナは嵐の中だって迷わず歩けるから、あの子に先頭を頼めばいい」
「でも白き嵐なら、」
「そうだな、避けたほうがいい。そうじゃなくてもおまえらは開拓団としては異様な距離を行かなきゃならないんだ。極力白き毒を体に溜めないほうがいいに決まってる。――テントを張ろう。さっさとしないと、嵐が来るよ」
 ぎょっと身を固くするアキハルにミヤモトはあっさりと言い放ち、自分の荷物を地面に放り出した。そしてテントが収納された袋に手をかける。
 呆然とする開拓団の人々をササキが「さあ、」と促した。開拓団員――アキハルも含めた六人は、まだ慣れない手つきで、テントの組み立てにかかる。
 マナはそれを横目に、台車へと歩み寄った。台車に乗せられているのは、大きな鉢に植えられた、若木。――いずれは巨大な都市の基盤樹となる。
「白都(しろみやこ)」
 呼びかけて、樹の幹に触れる。――守護樹として旅立つにはまだ細い幹だ。
 ぴりっと電気が走るような感触の後、白都の思念が聴こえてくる。
「なんですか、一族のマナ」
「大丈夫?――もう二日、太陽を見てない。そこに、嵐だ」
「――ええ、大丈夫。嵐をやり過ごせば、すぐにエナ=クロスアウダ市なのでしょう?」
「でもセルシャを出発して四日だよ。無理してでも、今日中にエナに行ったほうが良いなら、そう言うよ」
「いいえ。我が民の安全が第一です」
 そう、とうなずいて、マナは幹から手を離した。
 周囲から、――主に開拓団の面々から奇妙な視線を向けられていることには気づいていたが、知らぬふりをした。






BACK  TOP  NEXT