No.002_06
「反対よ」
マナが開拓団に同行することに、アスカとフィフィーはきっぱりと反対した。
宿舎の食堂で、開拓団員一人を除いて、全員が集まっている。その彼らの前には、マナと二人の運送屋。アキハルは開拓団とマナたちに挟まれる位置に座っている。
「そちらのお二人の護衛は受け入れてもいい。けど、ただ単についてきて根付く時を見届けたいなんて、理解ができないわ。そんなヒトについてきて欲しくない」
アスカがばっさりと切り捨てる。
「理解できないから最初から受け入れないっていうのか」
アキハルが反論すれば、アスカは冷ややかな視線の温度をさらに下げる。
「あなた事態が把握できてる?」
「まったく同感ね。今はそうじゃなくてもデリケートな時期の。そこにわけのわかんない第三者を無防備に迎え入れようって?あんた、頭ん中に白い毒湧いてるわよ」
フィフィーがまたきついことを言う。
二人の運送屋は真剣な表情でそのやり取りを見つめていた。最初はふざけていたミヤモトだが、あの後すぐに「ふざけすぎた」といって団員に頭を下げて謝ったのだ。
マナはといえば、相変わらず無邪気を装っていた。
「ねえ、じゃあ私が市民になるなら許可してもらえるの?」
火に油を注ぐと知っていてそう言っているに違いない。そのたちの悪さに、アキハルは顔を引きつらせた。
ふわふわと笑うマナの言葉を、アスカが一蹴する。
「開拓団はパートナー制よ。そもそも受け入れるつもりなんてないけれど、あなた一人だなんてなおさら受け入れられないわ」
「アキハルが一人だからいいじゃない」
「アキハルにはヴィルジニがいるのよ!」
「どこにいるのその子?」
「だからっ!今入院してるの!」
アキハルのパートナー、ヴィルジニ・マーマーはセルシャ市到着の日に入院が決まった。今この場にいる団員は、アスカとフィフィーのほか、すっかり存在感薄くその場にとどまっているシェローとユウセイ、そしてアキハルを加えて五人だ。
「あー・・・アキハル」
ここで口を挟むって、勇者かこのヒト。そんな視線がアキハル含む開拓団員男性陣から注がれる。視線の先にいるのは、ササキである。
「俺たちが護衛することは受け入れてもらえたと考えていいのか」
「ええと・・・・・・はい」
アスカとフィフィーをうかがうと、しぶしぶだがうなずいている。
「エナ市までの短い間だ。それでも?」
全員がうなずく。ここにとどまるよりも確実に運送屋手配ができるという申し出なのだから、当然だった。
そこへ、ミヤモトが口を挟んだ。
「しかしマナがついていけないのなら、クロスアウダも代わりの護衛手配をしないんじゃないのか?いや、するだろうけど、外国籍とか手配しそうじゃないか?少なくとも、当初言ってたクロス直属の運送屋は出さないだろ」
「余計なことを今言わんでも・・・・・・」
「言わないのは詐欺だろう」
ミヤモトも、この修羅場に油を注ぎたい人間なのかもしれない。アキハルは何度目か知れないため息をついた。アスカとフィフィーに気づかれたらにらまれるから、こっそりと。だ。
「ねえ、ササ」
女性たちのきつい視線を受けながら、やはり気にした様子なくマナはササキに話しかけた。
「なんと言えば納得してもらえると思う?」
その様子に、アキハルは「おや?」と思う。マナから他人をからかう雰囲気が消えていたから。
ササキは無表情を少しだけ崩した。
「誠実に、ちゃんと話せばいい」
「これをすべて話すことが誠実になるとは思えないんだ。・・・というか、話したくない」
「話せるところだけでもいい」
「・・・・・・」
しかし、マナが話し始める気配はない。顔を伏せてしまったマナの頭に、ササキはぽんと手を置いた。
「――クロスアウダ情報局を知っているか?」
そうしてササキが団員に投げかけたのは、そんな質問だった。全員、首を横に振る。
「だろうな。他の都市の政府は、たいていこれを嫌っている。エウノミアほどの大都市ともなればなおさらだ」
「その、情報局というのは?」
「政府とは独立している。基盤樹たるクロスアウダの意志に従う、クロスアウダ直属の組織だ。他の都市からはいいように思われていないが・・・・・・」
連結都市〈クロスアウダ〉が、情報統制の厳しいところだとは聞いて知っている。おそらくは、その統制を行っている組織だろうと見当をつける。
「俺たちはその情報局にゆかりある者で、今回ここまでマナを護衛してきたのもその関係だ」
「え・・・・・・と、」
都市を統制する組織にゆかりあって?――それではますますマナの正体がわからなくなる。
そもそもなぜ「ゆかりある」という曖昧な表現なのだろうか。所属しているわけではないのか。
さまざまな疑問が頭の中を駆け巡るが、アキハルは口に出さないことにする。
「マナは、樹との知識共有適合率が非常に高い」
「・・・・・・?」
「ヒトのなかにはある一定の割合で、樹と知識や記憶を共有できる能力をもつ者がいる。マナはそれなんだ。動けない樹の代わりに大地を渡り、樹から知識や記憶を受け取って、別の樹へと伝える。つまり、樹たちのコミュニケーションを仲介している」
アキハル含む、団員たちの眉間に皺が寄る。――理解しがたい話なのだ。
「クロスアウダがマナにこれを依頼した。――繁栄を極めた花と水の都、その遺児に会うことが第一の目的。そして・・・・・・」
一瞬、ササキは顔をしかめた。
「・・・各地の都市樹たちと、クロスアウダ間の意思疎通を仲介すること。この開拓団は、道中多くの都市を経由する・・・少人数の旅より、開拓団や移民団に同行するほうが安全だ。もちろんお分かりかと思うが、理由はそればかりではない、んだが・・・」
ようやくアスカとフィフィーが静かに考え込む。
アキハルには、ササキが即興で作った嘘ではなかろうかと疑念があったが、あえて口を出すほど愚かではない。それに、完全なる嘘ではない、気がする。
沈黙の中で、ミヤモトがやれやれとため息をついた。
「ササ、過保護」
「どこが」
「そのくらいの説明、自分でさせろ。そもそも、シェローだっけ、その子の勘違いにマナが悪乗りしたから話がここまでこじれたんだ。責任は自分で取らせないと」
「あやまったとはいえ、一緒に乗ったお前が言う台詞か」
「それを言われると少し痛いな。ここまでデリケートな問題抱えてるとは思わなかったものでね」
この超絶美人の運送屋は、わざわざデリケートなことに言及してしまう人種らしい。
そのミヤモトが改めて団員たちに向き合った。
「私からも頼むよ。――とりあえず、エナ市まで同行する許可がほしい。その先のことは、エナ市で改めて話し合わないか?そうすれば、ヴィルジニさんとやらも意見を言える。今ここで、女友達がヴィルジニさんの立場を守ったところで、根本的な解決にはならないんじゃないか?」
はっきりと問題部分を指摘されたアスカとフィフィーは、やがて黙ってうなずいた。
ササキがミヤモトに対して、「ほら見ろお前も過保護だ」とつぶやき、ミヤモトは悪びれた様子なくへらっと笑った。美人がそういう笑い方をしても美しいままだから不思議なものだ、などとアキハルは現実逃避にも似た感想を抱く。
「・・・とりあえずエナ市までこの三人が同行する。出発は、ヴィルジニの体調次第。これが決定で、みんな文句ない?」
アキハルが問いかけると、全員からうなずきが返る。
ひとまず、区切りがついた。アスカとフィフィーの様子から、前途多難な様相は見て取れたのだが、今この瞬間は未来を考えずにいたかった。