[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。














No.002_05



 政府管理下にある宿舎へ戻ると、庭で洗濯物を干していた青年がすぐにアキハルに気づき駆け寄ってきた。どこかこどもっぽさを残す顔立ち――シェローである。
「アキハルーっ、なんか護衛してくれるかもってヒトが一人見つかったらしい。リーダーが直接交渉するのがいいだろうって、ユウセイが。今、帰ってきてるから、話聞いてみて」
「そっちは断って。ああ、いや、――断りに行くよ」
 即答したところで、シェローはアキハルの背後にいる三人に気づいたようだった。
 一族のマナと名乗った少女と、ササキとミヤモト。マナはともかく、あとの二人は明らかな運送屋である。
「えーっと、もしかしてもしかする?」
「事情を中で話すよ。洗濯は・・・・・・」
 すぐ終わるの?と訊ねようとしたアキハルを放置して、シェローは勢いよく宿舎の中へと身を翻した。
「ちょっ、みんな!アキハルが浮気!女の子連れてきた!ヴィルジニ捨てるつもりだ!」
 響き渡った声に、アキハルは呆然とし、脱力する。
「え・・・もしかする、ってマナのこと・・・?」
 ミヤモトがふっとふきだして、そのまま声を立てて笑い出す。
「浮気相手かぁ。開拓団での修羅場って聞かない話じゃないしねぇ」
 アキハルはさらに力が抜けて、その場に座り込んだ。――シェローには、二人の運送屋の姿よりマナの方が重要に見えたらしい。アキハルも、彼女のことをなんと説明していいのかわからないのだが、よりにもよってそんな解釈をされるとは。
「すみません・・・シェローは、ちょっと早とちりっていうか、ものを考えないところがあって」
「いいよいいよ。さっさと説明しに行こう。――で、早く誤解を解かないとおまえは女の子全員敵に回しそうだ」
 ミヤモトがまだ収まりきらない笑いをこらえながら、宿舎の入り口へと視線を移す。
 アキハルもつられてそちらを見ると―――
 言葉にしがたく恐ろしい顔をした女性団員、アスカとフィフィーが飛び出してきたところだった。
 そのとき、何を思ったのか。亜麻色のふわふわの髪に、翡翠色の瞳の少女は天真爛漫に笑って挨拶した。
「はじめまして、これからよろしくお願いします」
 完璧に、完璧に、アスカとフィフィーは敵に回った。
 アキハルは冷たい空気に青ざめる。マナはからかいのつもりでやっている。この上なくまずい空気を感じ取りながらも、あえてそれを楽しんでいるのだ。
「彼女がついていくことを了承するのを条件に、私たちが護衛を引き受けた」
 ミヤモトが悪乗りする。さっきまでの笑いをこらえる顔ではなく、凄みのある妖艶な笑みだ。上から目線で、女の反感を買うに十二分である。
 ササキがため息をついて、ミヤモトとマナを背後に押しやる。そして硬直しているアキハルの肩に手を置いた――同情がこもった手を。
「その・・・まぁ、誤解が充分にあるようだから、冷静になって欲しいんだが」
 ササキのフォローは、少々遅かった。
 アスカは顔を真っ赤にして目から涙をこぼし始め、そして。
「たった十日ほどじゃない!ヴィルはがんばってるのよ!好きで入院してんじゃないわ!なのにっなのにっあんたは!」
 あふれた感情の矛先はアキハルへと向けられた。
「アスカ、あのさ」
「サイッテーっ!死んで詫びて!」
 フィフィーが独特のかわいらしい声でどぎつい言葉を吐く。
「フィフィー・・・」
 すでに残る男たちも出てきていたのだが、二人の勢いを止める勇気はないようだった。当然だ、アキハルにも無理だし、かばおうとしてくれたササキもすでに匙を投げている。
 ややこしくなった元凶であるマナは涼しい顔で状況を見守っていた。






BACK  TOP  NEXT