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No.000


 どこまでいっても白い。
 地平線すら、この白さのせいであいまいになってしまう。

「時々、綺麗だと思うんだよ」

 マナはそんなことを言う。
 雪のように――もっとも、雪は記録映像でしか見たことがないけれど――大地に余すことなく降り積もるこの毒は、多くの生命にとって敵なのに。

「・・・嘘だよ。本当は、大嫌い。白って色は、この世のすべてを、消していくんだ」

 酷く固い声音に変わっていた。
 昼は風が出る。すると、軽い白き毒は舞い上がって空を霞ませるのだ。都市樹が備えた浄化能力も、風に乗ってやってくる微かな毒までは処理しきれない。だから、街は昼の風が一番強いとき、休息をとる。――多くの人々は建物の外に出ない。
 誰も通らない廊下。
 日差しが高い角度から差し込み、空気をふわふわにする。
 ゴールデン・アフタヌーン。
 若木たちのための揺り篭を見下ろす空中庭園からは、霞のかかっていなければ風景が数キロ先まで見渡せる。けれど今は、やわらかくぼやけ、見る人の気持ちを溶かす。白が毒であることを忘れさせるほどに、暖かさに満ちている。
 アキハルは隣でじっと地平線を探すマナの手をとって、ぎゅっと握った。

「・・・別に、嘘つかなくて、いいよ」

 マナはさっきまで無表情だったのに、つないだ手をうれしそうに揺らした。声をあげて笑い、手を握り返す。
 しばらくして笑いが止んで、マナはつぶやく。

「あのね、――ぜんぶ、ほんとなんだよ」

 響きは少しだけ悲しい。


 なぜ、世界は白に染め上げられてしまったのだろうか、と考えるのは、愚かだといわれた。
 少なくとも、アキハルのような思考回路ではまともな結論は出ないのだと。

「前を見据えなさい。――きみは、きみたちの未来を作るために旅立つことを決意したんだろう」

 クロスアウダの言葉を耳の奥で反芻し、そして目を閉じる。
 この世の全てを無に返す白、それでいて美しく暖かな風景を見せる白。――彼らに支配された大地を渡り、〈根付く地〉へと、はたしてたどり着けるだろうか。
 こんなに迷い続けているのに。
 まだ、怖いのに。





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