冬の夜の品定め
夕食後三十分ほどテレビのニュースを見た。政治ニュースも経済ニュースも一緒に見ていた経済学部在学の至輝が解説してくれたから面白かった。
その後軽く竹刀をふるい、風呂に入った後に自室に戻ろうとすると、居間から祖母が顔を出して利一を呼んだ。
「アルバム。見たいって言ってたでしょう?」
「あ、出しといてくれたんですか?ありがとうございます」
近年のものを三冊。
祖母はにこりと笑う。
「明日も忙しいし、今日はもうお勉強をお休みしなさいな。人間ね、ひとつのことばかり頭に入れようとしたって入らないのよ。無駄が必要なの。無用の用ね」
利一は笑顔を返した。
つまりこれは、スパルタ家庭教師から逃れるアイテムだ。
「ちか江さんは策士ですよね」
「そうよ。衰えようとも、十家の出ですもの」
「でも継がずにお嫁に行っちゃったんですね。じじさまってそんなに素敵だったんですか?」
「そりゃあもう。利一もそういう男におなりなさいね」
「ハードル高いなぁ」
部屋に帰ると、至輝とフジが待ち構えていた。
利一が持っていた分厚いアルバムを見てきょとんとしている。
「なんだそれ」
「昼間、片付けてるときに見つけたんだ」
「春日のアルバム?見たいな」
至輝が乗ってきた。こうなれば、フジも流れに乗らざるを得ない。ちか江の読みは当たりだ。
一つは母がここへ送っていたという、利一と陸海のアルバム。一つは一族の年中行事ばかり集めたもの。もう一つは、一族のこども達の写真が集められていた。
「昭和・・・うわあ、誰だろこれ」
「こっち見ろ。じじさまだ、若いぞ」
「あ、うちの父さんに似てる〜」
「じゃあ隣が奥方か。美人だな」
祖母ちか江は、飛びぬけた美しさは持たないが、和服の似合う落ち着きある顔立ちだ。穏やかで従順そうに見えるが、求婚してきた男性にかぐや姫ばりの無理難題を吹っかけたり、竹刀で叩きのめしたりしたそうだ。
「至輝さまは大和美人がお好みなんですか?」
「見た目の好みを言えばそうだな。中身は、・・・きつくないのが良い。優しさにあふれた人。話を聞く限り、中身の面でもここの奥方は理想的だと思うが」
「どのへんが?」
火鼠の皮持って来いとか言う無茶振りされたいのだろうか。マゾか。
「知的で清楚で気配り上手で、あわてず騒がずどんと構えている度量まであるところ。うちの母親みたいに精神的に弱い人は宮野の嫁に向かないんだ」
「・・・・・・奥様は、」
「まあ、由布のこともあったから、仕方ない部分はあると今はわかっているさ」
二年ほど前に他界したという至輝の母親は、最後はほとんど正気ではなかったという。至輝をちゃんと息子と認識できなかったらしい。
宮野の当主の妻という重圧はもちろんあったのだろうが、病弱に生まれた長女のこと、そしてその長女をめぐっての様々な思惑が、彼女を疲弊させた。
と言うか、彼はそれに耐える強い女がいいのか。
優しい人であればあるほど難しいが、優しい人が良いという。
ある種、かぐや姫に負けず劣らず無理難題のような気がするのは気のせいか。
マゾじゃなくてサドか。
「至輝さまってかぐや姫みたいですね」
「は?」
その会話に、フジが大爆笑した。
「なんでそんなに笑うんだ」
「ああ、いや・・・確かに相手に求めるものが高いよなと。そうか、理想が高すぎて、現実であんまり恋愛に興味を抱けなくて・・・あー、なるほどね。今すげぇ納得した。そういう流れで光源氏計画になったわけだな」
「ひかるげんじ?」
「古文でやってないか?源氏物語。主人公光源氏が幼い紫の上を引き取って、自分の理想の女性に育てて妻にするの」
「え、至輝さま?まさかろり・・・」
「実はさー」
「フジ!」
フジは涙を流すほどに笑っている。
至輝はそのフジの口をふさごうと躍起になり、木造住宅が軽く揺れた。
「なーに騒いでんすか」
予告なく部屋のドアが開けられた。
立っていたのは湯上りの現一である。
「なになに〜、現ちゃんなんかあった〜?そこ若頭の部屋〜?」
さらに現一の背中にじゃれるように、賢治が現れる。でかい図体で猫のような行動は迷惑以外の何者でもない。現一はあからさまに嫌な顔をして賢治を引っぺがす。――春日において年上に対する遠慮はない。
「アルバム見てるんです。混ざります?」
「アルバム?そんなんあるんだ。俺、自分の写真とか全然ねぇんだよなぁ」
賢治がずかずか入ってきて、彼に襟首つかまれた現一も渋々入ってくる。
「全然、ですか?」
「うちにはたぶん、一枚も。そういう家柄じゃねーもんで」
「・・・家柄とかいう問題ではないかと」
「そうすか?春日はだいたいそんなもんでしょ。十家の、お前もあんま持ってねぇだろ?」
「まあ、あんまりないけど。でも俺は影役やってたから、日常的な写真がないってだけ。七五三とか誕生日とかの記念写真はあるぞ。あんたんとこは異常」
「そっかなー?」
滋家は謎に包まれている。
「現一さんは?」
「・・・・・・ねーちゃんと写ってんのばっかだったから封印しましたよ」
「うちも姉と写ってるの多いですけど、嫌ですか?」
現一は、利一と同じく少し年の離れた姉一人を持つ。その姉は独立して、現在はばりばり第一線で働いているそうだ。利一はそういうところで彼に親近感を抱いている。
「うちのねーちゃんはね、女尊男卑を骨の髄までわからせるような人なんすよ。虐げられてた頃の思い出が蘇るから見たくないんす」
「・・・・・・」
利一の姉・陸海は「お姉さまとお呼び」なんて強要してくるが、なんだかかわいいものに思えてきた。
賢治の発言を受けて、彼のこどもの頃の写真がないかと別のアルバムをめくる。しょっぱなからフジの写真だった。小学校低学年といった頃だ。人形のようと形容するにふさわしい容姿をしている。これが今の女装へと繋がるわけだから、苦笑しか浮かばない。
徳美や至輝、現一の姿もある。
「ええと、これって・・・」
知らぬ顔を指差すと、全員が一瞬息を止めた。――そこに写っているのは、百家の姉妹に良く似た顔。
「それが百家の薫子」
「やっぱり」
大きな目が挑戦的にカメラを見上げている。コンプレックスとは無縁そうだ。
「こっちは?」
また息が止まる。
「・・・・・・三家の尊。透の兄貴」
「・・・・・・ああ、そっか」
透の兄は夭折している。死因は事故と聞いているが、一族がらみなのは確かだから、きっと複雑な事情があるのだろう。透は普段明るいが、兄を連想させるワードが出ると途端に様子がおかしくなる。
利一はページをめくった。
またしても三家の尊が写っているが、もう話題にはしない。その尊と一緒に現一が写っていた。中学生くらいだろうか、大きく口を開けて笑っている写真だ。
「現一さんって、こうしてみるとけっこうフジと似てるんですね」
「そうかぁ?」
フジが疑わしげに言う。
「現一さんって、今はガタイいいし男前って感じだけど、小さい頃はほら、ところどころ、フジと同じキレイ系の要素がある気がする」
「そりゃないっしょ。フジのは十家の奥方似。うちのねーちゃん見たらわかりますよ、俺と似てて、んでもって、ぜんぜんキレイとかそんなカテゴリじゃない」
「ふうん?」
釈然としない利一の横で、賢治が深くうなずく。
「んだな。るーたんは確かに男前カテゴリ」
「・・・るーたん?」
「羽良琉璃。現一の姉さんね。俺の一コ上で、もともとはあの人が跡継ぎの地位にいたから結構仲良くしてたのよん」
「るーたんとかマジねぇわ・・・」
現一がげっそりしている。
「でもるーたんは美人だと思うよ?十家のみたいな性別どっちよ?みたいなんじゃなくて、豪快な美人。姉御。肉食系女子」
「ねーちゃんの話はもうやめてくれ」
苦手な人ナンバーワンといったところか。怖いもの見たさで、会ってみたい。
「利一、これがお前の姉か?」
至輝が利一のアルバムを開いていた。
誕生日や入学式など、節目で写したものが中心になるので、どうしても姉とのツーショットが多い。
「あらやだ、けっこうるーたんと似てない?」
「え、まじっすか?」
「マジマジ」
フジと現一は利一にとっての二従兄弟なので、容姿が多少似るのも当然だ。
「ああ、確かに。通じるものがあるな」
「俺は見ませんよ」
陸海は体育会系とは言いがたく、剣道も三年で辞めた。ガリガリだった頃は懐かしく、二次成長を過ぎればちょっとふっくら。気の強い顔立ちで世話焼き感もあるが、遠慮なく言えば「おばちゃん」っぽい。
「いいじゃん、かわいいじゃん。俺は好みっすよ〜」
高校入学時の写真を見ながら賢治が言う。
「賢治の好みって意味不明」
現一は一蹴する。姉と似ているというだけで苦手意識を持つようだ。
「俺の好みは〜、頼られ系の女の子。でも実は気を張ってるだけの強がりで、甘え下手だけど、俺だけには時々甘えてくれる!みたいなのが良い。ツンデレが良い」
「・・・・・・」
利一はノーコメントを貫く。
姉がそんなのだとは思えない。
「だからるーたんは好みだったよ」
「どこがツンデレ?ツンあったか?デレあったか?男の友情築けるタイプだろ?」
「テンプレに当てはめるとちょーっと違うけどさぁ」
言いたい事はわからなくもないが。
「見た目の好みは?」
至輝が質問する。なぜこの話題に乗っかったのか、利一には理解不能だ。
「ミニスカート。オーヴァーニーソックス。ガーターベルト」
「服装じゃねぇか」
「それが似合う人って話ね。制服はロマンだよ」
「それは同意」
同意したのはフジである。至輝の視線が冷たい。
「お前、人のことをロリ扱いしといて・・・」
「中学高校の頃、制服っつか制服が似合う子っていいなって思ってた。今もフェチってわけじゃねーもん」
利一は至輝の好みと光源氏について掘り下げたい気分だが、なぜかうまくフジが話を逸らす。なんだかんだで、若君に激甘と言うことか。
「はい次!現ちゃんの好みは?!」
「いつからそんな話になったよ」
現一の声が摂氏零度だ。
そのとき、ふすまの向こうから声がかかった。
「失礼してもよろしいか」
堅苦しい物言いだが、繊細さを感じさせる細い声。――この屋敷に住む、滋芳竜輝である。
ふすまを開けて迎え入れると、彼はお盆にお茶とお菓子を持っていた。人数分ある。
「奥様が、お持ちしなさいと」
「さっすが奥方」
「竜輝の分もあるじゃん。混ざれよ」
「いや、俺は・・・・・・」
「どうぞどうぞ」
男ばかり集まってしまった。
「じゃ、雨夜の品定めといきますか」
にやにやしながらフジが言う。フジが盆を受け取るとき、竜輝は異常に警戒していた。昔フジが苛めたに違いない。
「雨降ってた?」
「いや、今夜は晴れ渡って放射冷却がハンパねぇって予報」
「ていうか品定めって?」
「てめーら日本人なら最古の長編小説を読んでおけ。教養がたりねーぞ」
きょとんとするのは利一、現一、賢治。ばっりばりの体育会系頭に古典の教養など残ろうはずがない。
「えー。小説とか一行読んだら眠くなるじゃーん。竜輝知ってんの?教えろ」
賢治が竜輝を捕まえて首に腕をかけた。あの太い腕につかまったら逃げられない。
「源氏物語の中で、主人公とその友人が雨の日に理想の女性について話し合う場面をそう言うんだ」
「へー」
「知らねぇな。教科書に出てたのは、冒頭と、紫の上との出会いと、女三宮を嫁にもらったときの紫の上との会話。それだけしか読んでねぇ」
これは教科書上でのお勉強はきっちりこなしたらしい現一の発言。
「まっ、なんでもいいじゃん?現ちゃん、ほら、理想の女の子についてどぞ!」
「理想とかマジ思いつかねぇ」
「あんな姉と母がいたんじゃ理想なんざ思い描けねぇだろな」
フジが意地悪く笑う。
現一の母は良家の当主だ。嫁入り先を乗っ取ったと陰でささやかれる女傑である。
「お前は当初の予定通り紘家に婿入りしてりゃよかったんだよ」
「そりゃ家なんざ継がねぇと出てったねーちゃんに言ってくれよ」
「婿入り?紘家ってことは・・・・・・え?」
「そ。これが徳美のもと婚約者殿。徳美が跡継ぎだと正式に発表した年だから、えーっと、徳美が七歳で現一が八歳かな。そこから琉璃が出て行くときまで十年ほど婚約してましたとさ」
「ええええええええ」
現一は二十三歳だから、つい四年前までか。
「春日じゃあ、当主となる者は結婚もしくは婚約していることが暗黙のうちに決まっててな。今の徳美は例外中の例外だけど、それは置いておくとして。スムーズな世代交代のために早くから婚約者決めたりってあったんだよ。でないと、長老殿のようなことになる」
長老殿とは泉家の久弥のことだ。確かに、四十手前で未婚。跡継ぎの地位にある者のなかではぶっちぎりの最高齢だ。
「おっさんは好み限定しすぎなんだよ。一度金髪の北欧美人を連れてきて嫁にするんだと言って議会で大問題になったよ」
「マジか」
「ああ。妖精のような可憐な人だった」
「本当に外国人?どうやって知り合うんだ?」
「趣味の旅行。フィンランドだったかな。英語で喋ってたけど」
「北欧の妖精に一族の嫁は無理だろ」
「久弥さん、天然金髪を崇め奉ってるからな」
「もう賢治で我慢すれば良いのに」
「いやっだぁ、クソガキめ、冗談でもぶっとばしちゃうぞ!」
賢治が、つい三ヶ月前まで紅葉に擬態できるオレンジ色だった頭を揺らして怒る。蛍光灯の下、きらっきらとブロンドが輝く。
「で、現ちゃんは二十歳直前まで婚約者がいて、その後は?カノジョとか作んなかった?」
「外でカノジョ作っても結婚できねーじゃん」
「甘い!十家の当主みたいな例があるだろ!」
「伝説だな。そんな根性ねぇよ」
フジの母親は、春日一族とは無縁の人だったのだが、現在は間者として働いている。
「そんなに大変なんですか?」
「大変大変。だってうちはこんなやべぇ一族ですってバラしたら、普通は女の子引きますよ?本当の職業も言えないまま、結婚してください、守秘義務発生します、実の親との親戚づきあいはやめてください、かならず跡継ぎ生んでください、俺は突然刺されて死ぬかもしれません、何があっても離婚不可能です、これを飲み込めるなら結婚できますとか言えます?ハードル高すぎ。プロポーズの時点でふられるね。だからたいていビビッて、一族内の見合い話出された時点で本命とは別れちゃう」
「・・・なんか、健全じゃないですね」
「ねぇっすね。冗談じゃなく一族内ばかりで結婚してっから。唯一、一族と一切交わってないのは真家。さすがに医者の家系は危機感も強いらしいすね」
「真家は医者だから職業言えるし、俺らみたいな体張る任務あんまねぇし、一族の付き合いがちょっと変なことを除けばハードル低いだろ」
フジのせりふに少々うらやましそうな響きがあったことを、賢治は聞き逃さなかった。
「ふふーん。じゃあお前は外の女の子と付き合うのに何て言ってんだ、職業」
「大学生」
事実だ。
「くそ!くそ!そう来たか!」
「お前は?」
「警備員。探偵事務所勤めで、依頼者から要望があった場合の警護を担当」
「名案。その嘘じゃない感じが良い。将来使おう」
「らっぱすっぱを現代語に訳すとそんな感じだな」
「あんた探偵だ警備だってよく考え付いたな。馬鹿のくせに」
現一が呆れ感心している。
「うん。弓弦に考えてもらったし」
「弓弦ってお前に甘いよな」
「友情のなせる技さ〜。さっ、次は竜輝の理想の女の子像を聞こうか!」
「なんで言わなきゃいけないんだよもう寝ろよ」
未だにがっちり捕らえられている竜輝が心底迷惑そうに言う。
利一は竜輝がどんな立場にある人間なのか知らないが、滋芳を名乗るから滋家の賢治とはなんらかのつながりがあるんだろうな、くらいは察している。
「付き合った女の子の数はー?」
「うるせー、なんで言わなきゃなんないんだよ!」
「俺ね〜、お前が女の子といちゃついてんの見たことあんの〜」
「はあ?!」
「あれって、泉家の子かな?庇護欲そそる感じの〜」
「・・・・・・」
ていうか、なんでこの三十路は女子のノリなんだろうか。着ぐるみかぶってるんじゃなかろうか。背中のチャックを探したくなる。
「竜輝の好みは庇護欲そそる小柄で華奢な子ね」
「もう勝手に言っててくれ」
「でもそれ、春日で希少価値高いよな」
現一が感心したように竜輝を見つめている。よくぞ一族内で見つけた、とでも言いたいのか。確かに華奢な女の子を見ない。透だって比較的小柄だが、あの発達した筋肉で「華奢」とはいえない。もしくは、華奢っぽく見えても、中身がそれを凌駕している。
「さて、他の人たちも語ってくれたまえよ。とりあえず若君」
「俺?俺はここの奥方みたいな人」
至輝はあっさり言う。
「出会える確率超低そう」
「ああ、だから諦めてる」
だから光源氏計画に移行したのか。また暴れても面倒なので口にしないが。
「ま、若君はそのうち見合いでしょーねぇ」
「たぶんな」
「フジは?」
「教養があって頭の回転が速いのが」
「制服似合う子じゃないの?」
「制服好きだったのは確かだけど、今じゃそれみんな年下じゃん。年下ってあんまり。俺、年上のほうが話し合うこと多いんだもん。熟女とかじゃなくて、二つ三つ上の。大学は知的美人が多くて楽しいとこだよ」
「へー、とっかえひっかえってやつか。いいご身分だな」
「あ。お前、和服好きだろ?」
「好き好き。あの動きが制限される中での洗練された所作っていうのは芸術。さっすが至輝さま幼馴染さま、よくご存知で」
「なんかそういう気がしてた」
「ふうん?」
至輝の表情が、呆れているような咎めているような、微妙な色をしている。
「至輝さま、フジの女性遍歴知ってるんですか?」
「全部は知らないが、遊びと本命のタイプが百八十度違うのはよく知ってる」
「・・・・・・」
「遊びは派手系。これにつりあうモデル体型の美人。本命は『趣味は読書』みたいな子。男慣れしてないというより、恋愛なんてあんまり興味ないの、くらいドライで自立してるようなのを、束縛しまくりの過干渉。結果、相手が疲れて逃げた」
「うわあ・・・・・・」
それって病気じゃなかろうか。
「まだ逃げられてねーし」
「『君の事は好きだけど、君が求めてくる関係は大嫌い』」
「・・・・・・」
「ほらな。時間の問題だろ」
・・・病気だと思う。
「はい、最後は若頭」
「え」
こっちに話を振られて大いに焦る。
どんなの、って。
「理想とか、よくわかんないんすけど」
「けど?」
「剣道の試合会場で見た子が、たぶん初恋」
「うわああ、甘酸っぱい響き来た!」
全員身を乗り出してきた。そんなに面白いか?
「全国大会で、女子の二回戦。うちのガッコの女子と対戦してた人で、防具取ったらつやっつやの黒のロングヘアで、次元違ってきれいに見えた。目がパッチリ二重で白目がびっくりするくらい透明感ある白で。八位入賞してた。試合中の動きもきれいで、・・・結局負けちゃった試合の後、防具とったら目が赤くてうるんでて、なんか、うん。あの人がうちの部活の先輩だったらよかったのにって百回くらい思った」
「へ〜ぇ」
全員の声がそろう。
なんだか居心地が悪い。
「若頭の好みはロングの黒髪、パッチリ二重の年上体育会系女子ね。オッケィ、じゃあ見合いの参考にしますっ」
「へ?参考?」
「みんな、覚えたかー?」
「ばっちり。そこの竜輝みたいな好みだと言わなくてほっとしてる。探しときますよ、若頭。期待しといてください」
「な、・・・現一さん?」
「十家にいたかな・・・まあ探しとくさ」
「滋家からは三人くらい紹介できそうっす」
「はあ・・・?!」
わけがわからない。助けを求めて見回すと、ようやく賢治から解放された竜輝がすっと視線を逸らしてため息をついた。さっさと空いた湯飲みを回収して部屋を出て行ってしまう。
混乱する利一の肩を、至輝がたたく。
「お前が頭領になるときは最低婚約、出来れば結婚。嫁となる人物を、自分の家から出したいっていうのはわかるな?」
「・・・・・・ええええええ」
娘を天皇に嫁がせて権力を得る実家の図である。全員光源氏のポジション狙っていたのだ。さすがの利一にだってわかる。
「ま・・・まじめにやってるんすか、今の時代に、そんなこと」
「残念ながら大真面目。ここに居るのは将来各家の当主だから」
「もっちろん、外でカノジョ作ったっていいんすよ?いろいろと乗り越える覚悟とか絆があるならね」
「うわああああ・・・・・・」
この一族はこんなのだった。そういう変な風習を大事に守っているのだ。
賢治がノリノリで女性の好みを語りだし、他人に語ることを強要し、嫌そうな顔をしながらも現一がそれに付き合い、フジもうまく話題を広げていたのはそういうことだったのだ。
普段そんなに仲良くなさそうなのに、こういうところでの連係プレーが無駄に神懸かり的で腹立たしい。
「次はさぁ、夜の街に連れ出して好み探ってみるのってどーよ?」
「却下。補導されます。卒業後のプランだな」
「じゃあ早くとも四月かぁ。良い店探しとこっ」
勉強していたほうが精神的に楽だったかも。
そんなことを考えつつ利一はアルバムを閉じた。