13−てがみ
いつもの場所から、死んだ樹を見つめていたけれど、白衣の優男はやって来なかった。
そして、――二度と私が彼に会うことはなかった。
彼は私に短い手紙を残し、去った。
「きみに、ひとつだけ祈りを託していいだろうか」
手元に残されたのは、折りたたんだ跡の残る、メモ帳から千切り取られた一枚の紙。
私はそれを小さく千切り、病室の窓からそれを散らせた。
風に乗って散るさまは桜にも似ていてどこか名残惜しく、破片が見えなくなっても私はしばらく宙を眺めていた。
寂しさはない。たとえこのとき彼が去らなくても、遠くない未来に私のほうがこの世を辞さなければならないのだ。だからどんなに重いものを託されたところで、今なら許せる。私がそれを背負って歩かなければならない時間は、あと少しだけ。
彼のことは、深く考えないままでいようと思う。人生の終わりに、ほんの短い時間を共有した人。彼が見せた表情、彼と交わした言葉、それらをただ覚えている。
*
――きみが、幸福であるように。ぼくの愛した全てが、幸福であるように。