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精一杯動け。そして己の取った行動に満足せい。
――いつか、頭領が言ったことだった。
間違えたくない。己が動いた結果、悪いほうに転ぶのが嫌だった。――だから、今まで事なかれ主義を貫き通してきたのだ。
だがもう、動いてしまった。それならば、精一杯やりたい。
なんとか仕事に都合をつけて、職場の病院を出たのは、午後一時。
強い風に身を縮め、あわててマフラーを巻きつけながら足早に呼んでおいたタクシーに乗る。
駅まで、と頼む。タクシーは滑るように発進した。
今朝、胡月にフジの携帯電話と手帳を渡しておいた。昼過ぎてからフジに届けるように、と。だからそれまでは、フジに薫子からの電話がばれることはない。
駅から電車に乗り、二駅先で降りて、そこからは徒歩。普通なら循環バスがあるのだが、ちょうど乗り遅れた。次のバスまで三十分。それなら歩いたほうが早い。
道に、人気はなかった。広い車道と並行に走る、旧道である。車一台がやっとの道に、もちろん車は姿を見せない。
そのとき、ポケットで携帯電話が振動した。――弓弦自身のものである。
「――もしもし」
『どこにいる』
フジからの電話だった。
「薫の・・・・・・病院の近くだよ」
『こんの、馬鹿!』
耳が痛いほどの怒声が、電話越しに響いた。
フジの様子には、違和感があった。――焦りの色がにじみ出ていたから。
「何か・・・あった?」
『わからないのか、薫の罠だ!』
その瞬間、ぞっと背筋に悪寒が走った。
――そして。
どん、と音が聞こえた。
痛みよりも先に、闇が広がり、――そこで意識が途切れた。