07
「――透がこれ以上議会の決定を無視するようなら、謹慎もしくは監視をつけるべきでしょう」
居並ぶ当主たちを前に、十家のフジは堂々とした態度で発言し、優雅な所作で下座へと下がった。――艶やかな着物姿は女と見紛うほどであったが、当主たちの反応は、概ね悪い。苦虫を噛み潰した、と言う表現がぴったりくる。
それもそのはず、多くがこの女装に騙されたことがあるからだ。以来、フジは彼らの反応を見て楽しむためだけに、議会には女装でやってくる。
これの父親はといえば、飄々としたもので、実によいテンポで議会を仕切っていく。
「透、申し開きがあるか?」
「あります。前と同じですが。――私と春日利一は友人でした。今更その付き合いを止めろと仰るほうが、無茶ではないかと」
上手く立ち振る舞えと言われたにもかかわらず、透は挑戦的な声音ですらあった。
「しかしおぬしの振る舞いから、春日利一に我ら一族のことが漏れる可能性がある」
「はっきり仰ったらどうですか?私が喋ると、お思いなのでしょう」
透があざ笑うかのように言う。当主たちは、無論はっきりと表に出さないが、色めき立つ。
弓弦は頭を抱えたくなった。――明らかに火に油だ。
「我ら一族は、世の表側に出ることまかりならん」
滋家の当主が言う。
「例えどんなに小さくとも、危険の芽は摘むべきだ」
「わかりませんか、おまえは三家の人間だ。普段から目立つことは極力避けなければならない」
良家の当主が言う。
真家はこのとき、発言権を持たない。他の家から発言を求められた時のみに、権利が発生する。だから、透を庇ってやることはできない。
あきらめた心地で、おざなりに当主たちの責めを聞き流していた弓弦だったが、思わぬ声が透を庇ったことに驚いた。
「透の言い分には一理あること、認めましょう」
フジだった。――彼の紅を差した唇が、艶然と笑む。
「しかしながら、透。あなたは春日利一と学校が違う。つながりは、剣道だけ。たとえ同じ大会に出場しても、会場に居る時間は短いのだから避けることも出来るはずなのに、どうして?」
「友達だから。あっちから、話しかけてきます」
「質問を変えましょう。――どうして剣道の大会にでるのかしら?」
透は一瞬、返答につまった。フジの目が、勝利を知ってか一瞬きらりと光る。
「強く、なりたいからっ」
「それは理由として不十分だとわたくしは判断します。――皆様方はどう思われますか?」
苦々しい様子ながら、フジに賛同する当主たち。
「三家は春日の要。影の者が日の下で目立つこと、これは一族の将来にとって危険です。随分前の議会で、透も承知したはずです」
「でも部活は続けて良いって!」
「わたくしが発言しています」
ぴしゃり、とフジは透を黙らせた。
「透はこのたび、県で優勝しています。このまま地方、全国と勝ち進むのは、いかがなもでしょう?」
「棄権しろって言うの?!」
「あなたは充分目立ちすぎています。――剣の腕を上げたいと思うのなら、春日の訓練が一番効果的です。それは透自身にもわかっているはず。それなのにたかが高校生の大会にこだわるわけは、春日利一との接点だからでしょう」
「違う!」
「あなたが発言するべき時ではありません」
フジはことさら冷たい口調で言った。
しゅん、と黙り込む透の姿に、やれやれといった表情で、フジは発言を終えた。
議会の場は静かになる。
こういった沈黙を破るのは大抵頭領だった。
「透、次の試合はいつかな」
一番上座に座る頭領の声は、柔らかながら迫力があった。
透は緊張した様子で答える。
「二週間後、です」
「出場を辞退しなさい。ここで稽古をつけてやろう」
「――はい」
頭領の言葉に、反抗的な色を一切出さずに透は頷いた。
「下がりなさい、透。議会もこれにて終了だ」
こうなれば、各家の言い分など関係ない。頭領が決めたことには、基本的に逆らえないのがこの春日である。
弓弦は退出する透を見送りながら、これだけで議会が終わったことにほっとしていた。