04
「高校のころって、何考えてたっけ」
「おれは彼女作ることに情熱注いでたけど」
「・・・ぼく、キミとの会話嫌いだよ」
「今で言うツンデレが好きだった。っていうか今も!」
「もうこの人一生黙っててくれないかな」
場所は、裏門からすぐ近くにあるコンビニの駐車場に移っていた。ワンボックスタイプの車内である。運転席では賢治が、先ほどコンビニで買ったパンを頬張っていた。
「フジはさ、普通の高校生からは逸脱してるって思うんだよね」
「春日は一般から逸脱したやつらの集まりだろ」
「そうだけど。――でもぼくは、あんなふうに積極的に動いたりしなかったなって思ってね。全部命令待ち。うちが真家だからってのはあるだろうけど」
「まぁ、それだけ跡継ぎ候補くんその壱がお気に入りなんだろ。もともと、『その壱』を推薦したのはフジだ。それ以前は、薫と組んで春日転覆謀りそうな雰囲気だったじゃん」
お互いに、苦い笑いこぼす。
フジも薫子も支配欲の強い人間だ。しかも支配する能力が備わっているからなおさらだった。
そういう意味で、気があったのだろう。よく二人で話している姿が見られた。
しかし、仲が良かったというわけではない。支配欲の強い人間同士なのだから、当然互いに主導権を握ろうとして、反発し合う。
「仲悪いから薫と組むことはなかったと思うけど、――そうだね。議会が負ける可能性はぐーんと高くなっただろうな」
「しっかしフジはなんでそんなに『その壱』に執着するかなぁ。春日の存在知らないなんて、面倒なだけだろー。ニノ春日(にのかすが)の長女のがマシだと思うけど」
「ぼくは正直なところ、フジが頭領になればいいと思うよ。いろいろ問題はあるけどさ、名前出てる候補の中じゃ一番いいんじゃないかな」
「ムリムリ。フジがそう主張したら、議会があいつを殺しにかかる。後見って位置が一番安全だ」
「ま、そうだろけど」
危ういバランスで成り立つ春日の一族に、フジはあまりに危険な人物だというのが、賢治とも一致した見解だ。
同じように、薫子も。
そういった意味で、フジが跡継ぎに推薦した少年――春日利一(かすがとしかず)は、人畜無害というにふさわしいだろう。一石を投じるどころか、小さな波紋さえおこせそうにない人物だ。
「しかしフジはなんで学校潜入なんてしてるんだ?」
「跡継ぎ候補に会うため、――ってわけでもなさそうだったな」
「盗聴はうまくいってねーの?」
「あー、フジに仕掛けてたってやつ?無駄だよ、ほら、聞いてみる?」
ヘッドフォンを賢治に渡す。
喫茶店からここまで移動してきた理由のひとつに、盗聴器の電波の問題が挙げられる。議会側がフジに渡したもののなかに盗聴器が仕掛けられているはずだが、――相手は同じ一族の間者だ。その類のものを見つけることなど、容易くやってのける。
ヘッドフォンを受け取って装着した賢治だったが、数秒で奇妙な顔をして、投げ出した。
「なにあれ、どこあれ」
「職員室じゃない?」
「なんてとこにマイク放置してんだよ」
「かわいいもんだよ。薫子なんて赤の他人さまにつけてた」
「あの二人だけはどーしよーもねーなー」
賢治はシートに体を深く埋めて、ため息をついた。
普通盗聴器に気づいても、それを外さないのが暗黙の了解となっている。自分の行動の潔白さを議会に知らしめることにもなるからだ。フジや薫子の行動は、議会に喧嘩を売っているに等しい。薫子は実際売っているのだが。
しばらくの間、賢治は不機嫌な顔で校舎を見つめていた。弓弦も無言でパソコンを弄る。
そのとき、突然賢治が体を起こした。
フロントガラスに頭がぶつかりそうなほどに身を乗り出して、じっと何かを見つめる。その姿はさながら獲物を狙う肉食獣だ。
「賢治?」
弓弦は賢治の視線の先を追った。
裏門から下校する生徒の数は少ない。時に部活中らしい生徒の姿が通りすがるだけだ。
そこに、男子生徒が現れた。
フジではない。少なくとも弓弦には見覚えのない顔だった。
男子生徒はわき腹に手を当て、そして背後におびえるように、体をかばいながら裏門を出た。
賢治がぱっと車外へ飛び出した。
ただならぬ様子に、弓弦も続いて飛び出す。
賢治はためらいなく、男子生徒に歩み寄った。その気迫は、背後からも感じ取れるほどだ。
男子生徒は賢治に気づくと、見ていて哀れになるほど狼狽し、動かない体で逃げようする。が、無駄な足掻きだ。
「何をしてやがる、竜輝(たつき)」
低く凄むとともに、賢治は男子生徒の腕を強くつかんでいた。
「ケンっ、――なんで!」
「クソ親父が、もう動いたってか?!それとも、ニノ春日にでも加担するって?!」
「ち、ちがうっ、放せよっ!」
「誰にやられた?言えるもんなら、言ってみろ!」
弓弦は自分の顔が険しくなるのを感じた。
この男子生徒は、――様子からして滋家の間者だ。
賢治も弓弦もこの少年の潜入を知らなかったということは、議会の命令で動いていない。滋家の独断だ。
「賢治、人に見られる」
幸いにも、駐車場や道に人の姿はなかったが、それでもここは公道だ。
「車に乗って。キミは手負いだろ?手当てしよう」
滋家の少年は弓弦を見て、戸惑った様子だった。だが、痛みには勝てないのか、うなずいた。
少年を引きずるように賢治が車へ連れて行く。
弓弦も車へ戻ろうとしたが、ふと呼び止められた気がして振り向いた。
目が捉えたのは、一人の少年。
「――フジ、」
低い呟きなど聞こえそうにない距離に、フジが立っていた。――その口元は、勝利にゆがんでいる。
フジは弓弦に背を向けると、軽く挙げた片手をひらひら振って、去っていった。