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01 序章
「私たちに似合いの時代だわ。そう思わない?」
薫子(かおるこ)は笑って言った。――それはまだ、彼女がみずみずしい少女だったころのこと。
幼ささえ感じさせるその容貌に似つかわしくない、不敵な笑み。
「猜疑心って、最高の隠れ蓑よ。これって戦国以来の、私たちの時代だわ。暴力があるかないかしか差はない。騙して相手を蹴落としていくの。最高ね」
「そんな時代、かな?」
「ええ、弓弦(ゆづる)はそう思わないの?」
自信たっぷりに薫子はうなずいた。
それから少し経って。また薫子は語る。
「ねぇ弓弦。天下取りっていい響きよね。戦国は基本的に閉じられた日本の中の争いでしかなかったけど、今なら世界が待ってるのよ。ぞくぞくするわ」
その野心の大きさに呆れて、弓弦は美しい彼女を見つめた。
「この春日一族は手始めにちょうどいいわ。掌握すれば、絶対にその後にも役に立つもの」
春日一族。
現代に残る、かつて忍と呼ばれた人々の末裔。
小さな集団でしかないそれの、小さな存在でしかないはずの一人の間者が、――笑みを浮かべる。
「ねぇ、今素敵なことを思いついたわ。私がここを手に入れたら、――弓弦は私のものになるのね」
底知れない恐怖を感じたのは、その美しさに、だった。
それでも、彼女を見つめ続けた。
恐怖が付随しようと、それが危険であろうと、――美しいものに惹かれるのは人の性だ。
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